2018年度では,2017年度までに設計・合成を完了した分子内励起子相互作用を示す色素群の励起状態に関する検討と有機太陽電池への応用に関する研究を推進した. 本研究で開発した2発色団型色素は励起子相互作用による特異な励起状態をとることが予想されるが,それに起因した異常な蛍光特性を観測した.一般的な単一の発色団からなる色素と同様に,2発色団型色素は非極性溶媒中において吸収波長域より長波長側に強い蛍光を示したが,極性溶媒中では吸収波長域より短波長側に非常に弱い蛍光を示した.海外研究協力者の支援を得て,それら色素の過渡吸収分光測定を行ったところ,2発色団型色素には明確な過渡吸収が認められた.この過渡吸収は非極性溶媒中ではナノ秒オーダー,極性溶媒中ではより短いタイムスケールで減衰することを明らかにし,分子内励起子相互作用を示す2発色団型色素は特異な励起状態をとっていることを実験的に証明するに至った. 本研究で開発した2発色団型色素は励起子相互作用によって吸収帯が分裂するため,基底状態のエネルギー準位が不安定化することなく,吸収端が近赤外光領域へとシフトすることが前年度までに確認されていた.これら色素群もしくは単一の発色団からなる色素を電子ドナー材料として用い,フラーレン誘導体を電子アクセプター材料として有機薄膜太陽電池を作製,評価した.その結果,2発色団型色素からなるセルは,単一の発色団からなる色素を用いたセルに比べて,高い開放電圧および短絡電流密度を持ち,結果として高い性能を示した.これらの結果は,2発色団型色素のエネルギー準位や吸収端の広帯域化と長波長化に起因するものであり,創製した色素群が近赤外光電変換材料として高い機能を有することが示された.以上より,励起子相互作用の精密操作に基づく近赤外吸収色素の設計指針が近赤外光電変換に有効であることを明示した.
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