本年度は、主鎖高分子の化学構造が異なるポリロタキサンガラスを合成し、その構造と物性を比較することで、材料の強靭化を行うための分子設計指針(主鎖の化学構造、環の化学構造、包接率)をより明確にした。これまで用いてきたPEGやPPGを主鎖としたポリロタキサンガラスでは-50℃付近に非常にブロードだが大きな副分散が観測されたが、ポリブタジエンを主鎖にすると-70℃付近には急峻な緩和のみが観測された。小角X線散乱の結果、そのポリロタキサンガラスには構造の不均一性が見られ、環と主鎖が均一に分散した状態ではないことが示唆された。この温度はポリブタジエンのガラス転移温度に対応していることから、環に覆われていない主鎖が集まった部分のガラス転移を示していると考えられる。材料は非常に脆く、上述したポリロタキサン特有の強靭化メカニズムは機能していないと推測される。これは、材料の強靭化のためには、応力集中が発生した時に分子内相分離を起こすことが必要であることを明確に示しており、マクロな相分離でなくても分子内での相分離が予め起こさないように、環と主鎖の相溶性を考慮して分子設計する必要があることが示された。 また、環状成分として用いているシクロデキストリンに特有のX線回折について、その詳細を検討した。これまで測定したどのポリロタキサンガラスにおいても、q = 15 nm-1 付近に共通してハローが確認され、軸高分子を含まない様々なシクロデキストリン誘導体でも同様のハローが観測された。このハローは溶融状態や希薄溶液状態でも観測され、ポリロタキサンガラスを延伸することでそのハローは異方性を示した。これらの実験結果から、この回折の異方性が各シクロデキストリン分子の配向に由来していることが明らかとなり、回折強度の解析により材料中に埋め込まれた様々な環状分子の配向情報を抽出できることが明らかになった。
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