研究課題
リチウム塩LiTFSAとオリゴエーテル系溶媒(トリグライムG3、テトラグライムG4)の等モル混合物からなる溶媒和イオン液体[Li(G3)][TFSA]および[Li(G4)][TFSA]を様々な分子性溶媒によって希釈し、その電解液特性について検討した。その結果、希釈溶媒の誘電率が2.4よりも大きな溶媒では溶媒和イオン液体との相溶性が高く、Li塩濃度1M程度の希釈電解液も調製できることが分かった。錯カチオンの安定性を磁場勾配NMR法によって得られるグライムとLiイオンの自己拡散係数比から評価したところ、低極性溶媒であるトルエン、ジエチルカーボネート、ハイドロフルオロエーテルや汎用有機溶媒であるアセトニトリル、アセトン中において錯カチオン[Li(G3)]+や[Li(G4)]+は希釈前同様に安定であった。一方、希釈溶媒に極性の高い水やプロピレンカーボネートを用いた場合、グライム配位子と希釈溶媒の間で配位子交換が起こり、錯カチオンが安定化できないことが分かった。以上の検討により、適切な溶媒で希釈することで、錯カチオンの安定性を保ちながら、溶媒和イオン液体の粘性を下げ、イオン伝導性を従来の有機電解液レベルまで増加させることに成功した。溶媒和イオン液体[Li(G3)][TFSA]をトルエンで希釈した電解液は4V以上の広い電位窓を有し、且つアルミ集電体の腐食も起こらないことを確認した。これを電解液とし、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を用いたリチウムイオン電池の充放電特性を評価したところ、繰り返し充放電可能なことを確認した。すなわち、従来のリチウムイオン電池の構成成分であったカーボネート系溶媒、LiPF6を全く用いていない溶媒和イオン液体希釈系電解液を用いてもリチウムイオン電池の安定的な充放電が可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従い、様々な方法で評価した錯イオンの安定性という観点から溶媒和イオン液体とはどのようなものかを定義する分子論的要件を明らかにしつつある。また、電気化学デバイスへの展開についても溶媒和イオン液体を電解液として用いた電池を作製、評価し、それらが実際に適用可能であることを実証することで着実に研究が進捗していると考えている。
当初の研究計画に従い、溶媒和イオン液体の希釈系電解液に用いることができる分子性溶媒のバラエティを拡充するため、グライム配位子の構造を変化させた場合の分子性溶媒との混和性を調べる。また、アニオンの錯形成をも利用した機能性溶媒和イオン液体を調製する。具体的にはリチウムハライド-グライム系溶媒和物にルイス酸を添加し、錯アニオンを形成させることで溶媒和物の融点・ガラス転移温度の低下と錯カチオン構造の安定化を試みる。さらに、錯アニオンには酸化還元特性を有するものも存在するため、それらを錯アニオンとする機能性溶媒和イオン液体の電気化学特性を調べる。これにより、Li+の電荷補償のためだけに存在していた対アニオンにも役割を与えることで、機能性溶媒和イオン液体に基づく新しい電解液設計コンセプトを提案に繋げる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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