モデル化合物を発光材料に用いてOLEDを作製しデバイス特性の評価を行った結果、最大外部EL量子効率およびPL量子収率から見積られた一重項励起状態(S1)の利用効率は理論限界である25%を大幅に超える40 ~ 45%の結果が得られた。この結果は、EL過程においては三重項励起子が一重項励起子に一部アップコンバージョンされていることを意味する。 波動関数の重なりが三重項電荷移動状態(3CT)から三重項局在状態(3LE)への遷移速度に与える影響を調べるために、電子ドナー基と電子アクセプター基がスペーサー分子で分離されているモデル化合物の過渡吸収特性を測定した。励起直後に観測されたCT由来の過渡吸収は50 ns以内に緩和し、アントラセン由来の過渡吸収が観測されたことより、3CTから3LEへの分子内TTE速度は抑制されていないと考えられる。遅延蛍光のEL減衰曲線がTriplet-Triplet Upconversion (TTU)機構に基づくモデルと良く一致することから、TTUによって励起子利用効率が向上したと結論した。 一方で、電荷移動(CT)性を有するアントラセン誘導体で高効率なTTUが観測されたことから、CT性とTTU過程との間にある相関について研究を行った。その結果、アントラセン誘導体に電子ドナー基を置換することでCT性を導入した発光材料において、TTU変換が効率化されることが確認された。さらに、アクセプター基にシアノ基を導入することによって、TTU変換の効率が理論限界を超える値が観測された。この結果から、CT性により一重項性中間体の変換が活性化されたのに加え、従来のTTU機構には存在しない三重項性中間体からS1への変換が可能になったことが示唆される。
|