研究課題/領域番号 |
16H06058
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
須田 理行 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80585159)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | モット絶縁体 / 超伝導 / フォトクロミズム / 有機エレクトロニクス / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究では、フォトクロミック単分子膜の光異性化反応に伴う表面双極子変化を"光応答性電気二重層"として利用する新たな概念を提示し、強相関電子系物質への光キャリア注入を利用した"光駆動型"超伝導トランジスタを開発することを目的とした。また、分子設計・合成によってフォトクロミック分子の光誘起双極子をデザインし、光注入キャリアの極性(n型・p型)や密度を自由に制御可能な光応答性電気二重層トランジスタの基盤技術の確立を目的とした。 本年度は、基板→結晶方向に対し正の光誘起双極子を持つスピロピランを合成し、光誘起n型ドーピングが可能なデバイスの開発を試みた。DFT計算による双極子計算結果を元に分子設計を行い、実際に正の双極子変化を示すスピロピランの合成に成功した。この分子を用いて作成した単分子膜の評価は、紫外・可視吸収スペクトル、X線反射率測定、原子間力顕微鏡などを用いて詳細に行った。本単分子膜上にκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの単結晶を液相から貼り付けることでデバイスを作成し、電気抵抗測定を行った。 極低温下における紫外光照射によりデバイスの抵抗値は次第に減少し、最終的に超伝導体へと転移した。続く可視光照射によりデバイスはほぼ初期状態(絶縁体)へと回復し、光照射による伝導度スイッチが可能であることが示された。光照射およびボトムゲート電圧操作の同時スキャンにより得られた電子相図より、紫外光照射に伴い負電圧側へのゲート電圧シフトが観測され、n型キャリアが光により誘起されていることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、本年度は正の双極子変化を示すスピロピラン誘導体の合成を目としていたが、DFT計算を専門とする共同研究者の協力を得ることで、事前に分子の双極子を予想しながら合成を行うことが可能となり、予定より早く合成に成功した。これにより、本年度は実際のデバイス作成を行い、光誘起n型キャリアドーピングおよびこれに伴う超伝導転移を観測するところまで研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、n型、p型それぞれのキャリアを光誘起可能な光誘起電気二重層の構築に成功した。光誘起電気二重層という概念のメリットは、低温での連続的動作だけではなく、集光技術を用いれば任意の場所にアクセスし、キャリアドーピングを誘起出来ることにもある。今後は、こうした可能性にも着目し、光照射による電子系相転移を用いて、結晶内への電子回路の光パターニングを目指す。スピロピラン単分子膜の光誘起双極子を分子設計によって精密にデザインすることにより、p型ドーピング、n型ドーピング、またそれぞれによる超伝導転移を、結晶内において"任意の場所"で、"任意の極性"で引き起こすことが可能となるはずである。まずは、異なる光誘起双極子を持った分子の混合単分子膜を用いて、p-n接合や、ジョセフソン接合(超伝導-絶縁体-超伝導接合)などの分子素子を、光照射によって作製することを試みる。最終的には、絶縁体の有機結晶中に、光を用いて電子回路を配線する光MEMS実現に向けた基板技術の構築を目指す。
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