研究課題
本研究では、フォトクロミック単分子膜の光異性化反応に伴う表面双極子変化を"光応答性電気二重層"として利用する新たな概念を提示し、強相関電子系物質への光キャリア注入を利用した"光駆動型"超伝導トランジスタを開発することを目的とした。また、分子設計・合成によってフォトクロミック分子の光誘起双極子をデザインし、光注入キャリアの極性(n型・p型)や密度を自由に制御可能な光応答性電気二重層トランジスタの基盤技術の確立を目的とした。平成29年度は、昨年度に合成した基板→結晶方向に対し正の光誘起双極子を持つスピロピランを用い、光誘起n型ドーピングが可能なデバイスを開発した。この分子を用いて作成した単分子膜の評価は、紫外・可視吸収スペクトル、X線反射率測定、原子間力顕微鏡などを用いて詳細に行った。本単分子膜上にκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの単結晶を液相から貼り付けることでデバイスを作成し、光照射に伴う電気抵抗変化の測定を行った。極低温下における紫外光照射によりデバイスの抵抗値は次第に減少し、最終的に超伝導体へと転移した。続く可視光照射によりデバイスはほぼ初期状態(絶縁体)へと回復し、光照射による伝導度スイッチが可能であることが示された。光照射およびボトムゲート電圧操作の同時スキャンにより得られた電子相図より、紫外光照射に伴い負電圧側へのゲート電圧シフトが観測され、n型キャリアが光により誘起されていることが確かめられた。また、デバイスのスイッチング速度の光強度依存性を詳細に測定した。デバイス中では、スピロピラン単分子膜のフォトクロミズムのタイムスケールに連動して電気抵抗変化が生じていることを確認し、実際に光強度の増加によって高速なフォトクロミズムを誘起することによりデバイスのスイッチング速度を約6倍高速に動作させることにも成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、分子設計・合成によってフォトクロミック分子の光誘起双極子をデザインし、光注入キャリアの極性(n型・p型)や密度を自由に制御可能な光応答性電気二重層トランジスタの開発を目標としていた。実際に本年度は、昨年度までの光誘起ホール注入に加え、光誘起電子注入による超伝導転移の観測に実際に成功し、その成果を学術論文としてまとめ発表している。研究は、内容、スピード共に計画通りに進展している。
平成29年度は、分子設計・合成によってフォトクロミック分子の光誘起双極子をデザインし、光注入キャリアの極性(n型・p型)や密度を自由に制御可能な光応答性電気二重層トランジスタの開発に成功した。平成30年度は、これらの技術を統合し、結晶内への電子回路の光パターニングを目指す。まずは、異なる光誘起双極子を持った分子の混合単分子膜を用いて、p-n接合や、ジョセフソン接合(超伝導-絶縁体-超伝導接合)などの分子素子を、光照射によって作製することを試みる。申請者の所属機関には、PCで描画した任意のパターンに対する露光が可能なマスクレス露光機を始めとしたフォトリソグラフィ用装置が備わっているため、こうした装置を利用して、回路の描画と伝導度測定を組み合わせた評価を行っていく。最終的には、絶縁体の有機結晶中に、光を用いて電子回路を配線する光MEMS実現に向けた基板技術の構築を目指す。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
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