本研究では、フォトクロミック単分子膜の光異性化反応に伴う表面双極子変化を"光応答性電気二重層"として利用する新たな概念を提示し、強相関電子系物質への光キャリア注入を利用した"光駆動型"超伝導トランジスタを開発することを目的とした。また、分子設計・合成によってフォトクロミック分子の光誘起双極子をデザインし、光注入キャリアの極性(n型・p型)や密度を自由に制御可能な光応答性電気二重層トランジスタの基盤技術の確立を目的とした。 まずは、基板→結晶方向に対し正の光誘起双極子を持つスピロピランを用い、光誘起n型ドーピングが可能なデバイスを開発した。この分子を用いて作成した単分子膜の評価は、紫外・可視吸収スペクトル、X線反射率測定、原子間力顕微鏡などを用いて詳細に行った。本単分子膜上にκ-(BEDTTTF)2Cu[N(CN)2]Brの単結晶を液相から貼り付けることでデバイスを作成し、光照射に伴う電気抵抗変化の測定を行った。極低温下における紫外光照射によりデバイスの抵抗値は次第に減少し、最終的に超伝導体へと転移した。続く可視光照射によりデバイスはほぼ初期状態(絶縁体)へと回復し、光照射による伝導度スイッチが可能であることが示された。光照射およびボトムゲート電圧操作の同時スキャンにより得られた電子相図より、紫外光照射に伴い負電圧側へのゲート電圧シフトが観測され、n型キャリアが光により誘起されていることが確かめられた。これにより、p型、n型の光キャリア注入を分子設計によって任意に制御することが可能となった。 最終年度には、バルク結晶表面への直接的な分子修飾手法を開発し、バルク結晶表面への光キャリア注入にも成功した。この手法により、デバイス構造を用いることなく、様々な有機結晶表面へのキャリアドーピングが可能となった。
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