研究課題/領域番号 |
16H06060
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
山岸 郷志 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (20452089)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガスタービン / 耐熱材料 / 遮熱コーティング / 損傷 / 微視組織変化 / 変態 / 成膜方法依存性 |
研究実績の概要 |
本研究は,航空機や火力発電プラントで広く利用されているガスタービンの安全かつ効率的な運用の一助となることを目的とした研究である.ガスタービンはエネルギーを無駄なく利用するために,より高い温度で運転できるよう技術開発が進められている.従って,ガスタービンを構成する材料はより厳しい環境で使われることになり,様々な損傷を受け機能が損なわれる危険性が高まっている.本研究では,大気中の砂埃や火山灰といった微小な不純物による損傷に注目している.現在,特に高い温度で使用されるガスタービンの部品は,遮熱コーティング(TBC)とよばれる主にセラミックスからなる皮膜で表面を保護して使用されている.ところが,近年の運転温度の高温化によって,吸気中に含まれる微小な砂埃などが 溶融した物質(無機質燃焼生成物)がTBCに付着・浸透することで,TBCの性能を低下させるとともに寿命を著しく短くしてしまう.運転温度の高温化が進められている中で,予期せずTBCを喪失することは,ガスタービンにとって極めて危険な状況となる.しかし,無機質燃焼生成物による損傷現象に対する理解や対策は十分とは言えない.そこで本研究では,(1)無機質燃焼生成物による損傷メカニズムを解明したうえで,(2)損傷の程度を適切に評価する手法の開発さらに(3)無機質燃焼生成物のダメージに強いTBCの提案を通して,この問題の解決を目指すことを目的としている. 本年は,主に上記の(1)の課題に取り組み,無機質燃焼生成物がTBC内部への浸透を実験的に再現し,それが単なる浸透ではなく,化学反応を伴いながら微視的組織を顕著に変化する現象が起きることを明らかにした.また,それによってTBCの性質が変化し性能低下につながる可能性を示した.さらに,TBCの成膜の方法の違いによる微視的組織の効果についても検討し,将来的に上記(3)につながる重要な知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初計画は下記のとおり,4つの段階を経て目的を達成することであり,平成28年度は主としてi)に取組んだ.既存実験装置の都合により,当初計画していた実験の一部を完了することができなかったが,それに替えて平成29年度以降実施予定であったii)の課題を先取りして着手したことで,全体としては概ね研究計画のとおりに順調に進行しているといえる. i)TBC皮膜の機械的・熱的特性に及ぼすCMASの影響の解明(平成28年度) ii)CMAS損傷素過程の解析的および実験的検証(平成29,30年度) iii)CMAS損傷の許容基準の検討(平成30年度) iv)CMAS損傷の検出・評価技術および損傷防止・抑制技術に関する検討(平成30,31年度) 具体的には,上記i)について,CMAS損傷を実験的に再現しCMAS損傷を受けたTBC試験片を作成し,その弾性係数,減衰特性,熱膨張係数など基礎的物性の測定を行なった.しかし,CMAS損傷したTBC試験片の準備に用いる実験装置の利用にあたって,他の研究課題との兼ね合いにより一部条件の試験片の作成が遅れ,それらを使用する実験を平成29年度に実施することとなった.一方で,i)の過程ではCMAS損傷に対するTBCの成膜方法による影響について検討を行なうとともに,損傷に伴うTBC微視組織の変化,内部での物質の移動の様子について詳細な調査も実施した.これらの知見に基づいて,平成29年度以降に取組む予定であった上記ii)の課題について解析モデルの基礎的検討を先行して開始した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度分の研究の実施終了にあたり,先の項目で記述したとおり一部実施できなかった実験項目が残っている.平成29年度は,まず,その未実施分の実験項目を優先的に実施する.そして,平成28年度の一連の研究成果より,i)(先の「11.現在までの進捗状況」の項目参照のこと)に関連して新たに検討が必要と思われる事項が生じた.それは,CMAS損傷の動的挙動の解明である.これまではCMAS損傷前後のTBCの観察・測定を室温で(静的状態で)のみ実施してきたが,実際のCMAS損傷はガスタービン運転中の高温環境で進行する現象であり,その環境再現度の重要性を平成28年度の研究を通して改めて認識した.CMAS損傷過程のその場観察,さらには各種物性値の動的変化を捉えることは困難な課題であるが,CMAS損傷の問題に対して非常に有益な知見となる.そこで,平成29年度の研究実施にあたっては,このCMAS損傷の動的挙動の解明も意識した上で研究を遂行していく.
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