研究課題/領域番号 |
16H06061
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 俊之 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70735042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 材料強度学 / ナノ材料 / 疲労 / 破壊 / 繰返し塑性 |
研究実績の概要 |
膜厚が100 nmオーダである自立金属ナノ薄膜の疲労き裂は,き裂前方に先行して入込み・突出しを形成し,これと主き裂が合体して進展する.この疲労き裂進展の支配力学を解明するには,金属ナノ薄膜の繰返し塑性構成式を解明し,これを用いたき裂先端応力・ひずみ場の定量評価が必要である.しかし,面内寸法がmmオーダの金属ナノ薄膜では,欠陥で変形が局所化し,低ひずみで破壊するため,き裂先端前方の高応力・高ひずみ領域に相当する繰返し塑性構成式を評価できない.そこで本研究では,欠陥を低減するために面内寸法が数μmである微小ナノ薄膜試験片(マイクロ試験片)を用いて繰返し塑性構成式を評価し,これを用いた有限要素法解析によりき裂先端応力・ひずみ場を特徴づける力学量を評価する.併せて,疲労き裂周囲の繰返し変形場(ひずみ場)を実測することでき裂閉口の寄与を解明する.これらの結果を比較・統合することで,金属ナノ薄膜の疲労き裂進展の普遍的な支配力学を解明する. 本年度は下記の課題に取り組んだ. (1) 繰返し引張試験による繰返し塑性特性評価 前年度に確立した引張試験法を拡張して繰返し引張試験法を開発し,膜厚約500 nmの自立銅ナノ薄膜のマイクロ試験片に対する繰返し引張試験を実施した. (2) 疲労き裂周囲の変形場の実測 面内寸法がmmオーダの自立銅ナノ薄膜中の切欠き前方に変位測定用の標点をあらかじめ電子ビーム誘起堆積法(EBID)で多数配置した試験片を作製し,これに対する疲労き裂進展試験を実施した.進展途中で試験を中断し,負荷・除荷過程をその場電界放射走査型電子顕微鏡(FESEM)観察し,き裂周囲の標点群に対してデジタル画像相関法による同一点探索を実施することで,き裂周囲の繰返し変形場を定量評価できることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,膜厚約500 nmの銅薄膜から作製したマイクロ試験片に対する引張試験/繰返し引張試験を実施し,塑性/繰返し塑性特性評価に取り組んだ.引張試験においては,面内寸法がmmオーダの金属ナノ薄膜の引張試験結果に比べて高応力・高ひずみ領域までの応力-ひずみ関係を評価できた.つぎに,繰返し引張試験においては,引張試験プログラムに繰返し荷重負荷機能を追加・拡張することで,マイクロ試験片に対してもひずみ速度を制御して繰返し荷重を負荷できることを確認した.しかしながら,引張試験に比べて試験時間が長時間となるため,荷重センサーの測定の長期安定性および位置決め用ピエゾステージの長期安定性の確保が課題となった.これらについて,試験機の構成と試験手順の見直しおよび試験プログラムの改良を行い,信頼できる試験データが取得できることを確認した.これらの改良作業に時間を要したため,繰返し引張試験結果を十分に得られておらず,本年度中に繰返し塑性構成式を評価する当初計画に対して遅延が生じた. つぎに,疲労き裂周囲の繰返し変形場(ひずみ場)の実測については,まず面内寸法がmmオーダの自立銅ナノ薄膜中の切欠き前方に変位測定用の標点をEBIDで多数配置した試験片を用いて,疲労き裂進展中の負荷・除荷過程のその場FESEM観察を行った.これらの観察像において,き裂周囲の標点群を対象としたデジタル画像相関法による同一点探索によってき裂周囲の変形場を定量評価でき,これを基にき裂開口点を決定できることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,膜厚約500 nmの自立銅ナノ薄膜のマイクロ試験片に対する引張試験および繰返し引張試験を実施して,塑性/繰返し塑性構成式を評価する.並行して,疲労き裂周囲に標点を配置した試験片を用いて,種々の力学条件下でその場FESEM観察疲労き裂進展試験を実施し,疲労き裂周囲の繰返し変形場(ひずみ場)の実測およびき裂閉口の評価を行う.これらの結果を基に,有限要素法解析等を援用して疲労き裂先端の繰返し応力・ひずみ場を定量評価し,ナノ薄膜における疲労き裂進展の支配力学パラメータを検討する.
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