膜厚が100 nmオーダである自立金属ナノ薄膜の疲労き裂は,き裂前方に先行して入込み・突出しを形成し,これと主き裂が合体して進展する.この疲労き裂進展の支配力学を解明するには,金属ナノ薄膜の塑性/繰返し塑性構成式を解明し,これを用いたき裂先端応力・ひずみ場の定量評価が必要である.しかし,面内寸法がmmオーダの金属ナノ薄膜を用いた場合,薄膜中の欠陥で変形が局所化して低ひずみで破壊するため,き裂先端前方の高応力・高ひずみ領域に相当する塑性構成式を評価できない.そこで本研究では,欠陥を低減するために面内寸法が数μmである微小ナノ薄膜試験片(マイクロ試験片)を用いて塑性/繰返し塑性構成式を評価し,これを用いた有限要素法解析によりき裂先端応力・ひずみ場を特徴づける力学量を評価する.併せて,疲労き裂周囲の繰返し変形場(ひずみ場)を実測することでき裂閉口の寄与を解明する.これらの結果を比較・統合することで,金属ナノ薄膜の疲労き裂進展の普遍的な支配力学を解明する. 本年度は下記の課題に取り組んだ. (1) マイクロ試験片を用いた塑性特性評価 膜厚約500 nmと約100 nmの自立銅ナノ薄膜微小試験片に対する引張試験を実施し,面内寸法がmmオーダの試験片を用いた場合に比べて高応力・高ひずみ領域までの応力-ひずみ関係の評価を達成した. (2) き裂/疲労き裂周囲のひずみ場の実測 面内寸法がmmオーダの自立銅ナノ薄膜中の切欠き前方に変位測定用の標点をあらかじめ電子ビーム誘起堆積法で多数配置した試験片を作製し,その場電界放射走査型電子顕微鏡観察破壊じん性試験および疲労き裂進展試験を実施した.標点群に対してデジタル画像相関法による同一点探索を実施してき裂周囲の変位場を実測し,これを基にひずみ場を算出して,き裂発生時の切欠き前方ひずみ場および疲労き裂進展過程のひずみ場の評価を達成した.
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