• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実績報告書

水素脆化素過程モデルの構築とその応用

研究課題

研究課題/領域番号 16H06062
研究機関佐賀大学

研究代表者

武富 紳也  佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20608096)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード水素脆化 / 転位 / 分子静力学
研究実績の概要

水素によって材料強度が劣化する水素脆化の研究はその重要性から継続的に行われてきたが,低炭素社会を目指した水素利用社会の構築に関連して最近さらに社会的重要度が増している.本研究では脆化機構発現の前駆反応である転位の運動に着目して,脆化メカニズムの高精度な予測を目指した水素脆化素過程モデルを構築することと,水素脆化素過程モデルに基づく脆化メカニズムに立脚した破壊プロセスの解明と評価を目的としている.
純鉄を対象とした原子シミュレーションにより,転位の易動度が環境因子(水素濃度)と力学因子(負荷応力)によって上昇または減少つまり軟化と硬化の相反する結果を生じることが示された.さらに水素関連機器において使用が想定される現実的な高圧水素ガス雰囲気下では転位の可動性が常に減少することも示唆された.ナノインデンテーション法を用いた炭素鋼の実験でも水素濃度の上昇に伴って軟化から硬化の相反する結果が得られ,前述の転位の挙動と定性的に一致している.一方で原子間結合の分断による脆性破壊条件として用いられるGriffith条件を原子系に拡張することで,あらたな脆性破壊理論の構築にも成功した.また延性破壊条件としてGilmanき裂に基づく評価を行い,水素雰囲気下ではすべり面分離破壊が生じやすくなることも確認した.これら水素が及ぼす様々な影響を考慮に入れたき裂先端近傍の転位動力学法解析手法も構築した.また,解析的予備検討との直接比較のためFe-Si粗大粒材を準備し,転位の運動速度を測定するための試料準備を行っている.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では解析的研究として,転位の運動速度に関する分子静力学解析を行い,水素濃度と負荷応力に依存した転位の運動速度則を導出した.またすべり面分離によるき裂生成条件を評価するためにGilmanき裂モデルを用いて評価を行った.さらに金属の微視構造である原子構造の離散性を考慮にいれた脆性き裂成長条件を定式化することにも成功した.これらの知見に基づき,き裂先端応力特異場近傍における転位動力学法解析モデルを作成し基礎的な解析を行った.これらの研究を通じて,純鉄における水素脆化機構発現の前駆反応となる転位の運動に着目した水素脆化素過程モデルおよび水素脆化機構シミュレータの基礎を構築した.また,ナノインデンテーション試験から単純組成鋼でも環境因子(水素濃度)によって塑性変形の傾向が軟化/硬化と変化することも確認でき,前述の解析結果と定性的一致をみた.またFe-Si中の転位速度測定に向けて試験片の作成と試験装置の構築も進んでいる.さらに水素チャージ条件による固溶水素濃度の変化もTDAを用いて評価している.以上の通り現在までの進捗状況はおおむね計画通りであり,本研究は順調に進展していると判断できる.

今後の研究の推進方策

昨年度までの研究方針を継続・発展させて研究を実施する.構築した転位動力学解析モデルを用いて,環境/力学因子を変化させた解析を実施し,これら因子によって支配的となる脆化メカニズムの推移をまとめる.素過程モデルに基づいて水素脆化現象を高精度に評価するため,知見が不足している場合には追加の原子シミュレーションを実施する.これらの解析をもとに,環境/力学因子に基づく水素脆化メカニズムの分類に取り組む.さらに解析結果を比較評価するための基礎的実験として,ナノインデンテーション試験によって塑性変形の発展に及ぼす水素濃度/負荷応力の影響を評価する.また水素チャージを施したFe-Si試験片中の転位の運動速度の測定や,TDCB試験片を用いて環境因子の変化による破壊機構やき裂成長速度の変化を調査する.これら一連の研究を通じて,水素脆化素過程モデルに基づく脆化メカニズムに立脚した破壊プロセスの解明とき裂成長についてまとめる.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Molecular Statics Simulation of the Effect of Hydrogen Concentration on {112}<111> Edge Dislocation Mobility in Alpha Iron2017

    • 著者名/発表者名
      Shinya Taketomi, Ryosuke Matsumoto and Seiya Hagihara
    • 雑誌名

      ISIJ international

      巻: 57 ページ: 2058-2064

    • DOI

      http://dx.doi.org/10.2355/isijinternational.ISIJINT-2017-172

    • 査読あり
  • [学会発表] Application of Dislocation Dynamics to Hydrogen Embrittlement in Alpha Iron based on Atomistic Calculations2017

    • 著者名/発表者名
      S.Taketomi, K.Katayama, R.Matsumoto and S.Hagihara
    • 学会等名
      14th International Conference on Fracture, ICF14
    • 国際学会
  • [学会発表] Dislocation Motion Induced by Hydrogen Adsorption on Thin Film: A Molecular Dynamics Study2017

    • 著者名/発表者名
      R.Matsumoto, N.Kishimoto, S.Taketomi
    • 学会等名
      14th International Conference on Fracture, ICF14
    • 国際学会
  • [学会発表] 平衡水素濃度を想定したα鉄中の転位速度に関する原子シミュレーション2017

    • 著者名/発表者名
      武富紳也,松本龍介,萩原世也
    • 学会等名
      日本鉄鋼協会 「水素脆化の基本要因と特性評価研究会 中間報告会」シンポジウム
  • [学会発表] 応力勾配下における水素拡散係数の原子シミュレーションと実験的検証2017

    • 著者名/発表者名
      武富紳也,古賀仁士,本山武士,萩原世也
    • 学会等名
      日本機械学会 第30回計算力学講演会
  • [図書] Handbook of Mechanics of Materials, "Atomistic simulation of hydrogen effects on lattice defects in alpha iron"2018

    • 著者名/発表者名
      Shinya Taketomi, Ryosuke Matsumoto
    • 総ページ数
      2234
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      978-981-10-6883-6

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi