本研究では、高分子電解質溶液系(帯電系)の分子動力学(MD:Molecular Dynamics)法を新たに開発し、これを用いて高分子電解質の溶液構造に及ぼすイオン拡散・凝縮・伝導などの効果を詳細に調べることで、近年注目される熱電変換材料の知的基盤の構築を目指した。 令和元年度は主に、高速・高精度な帯電系のMD法であるLIPS/FFT法(平成28年度~29年度にかけて本研究にて開発された、Linear-combination-based Isotropic Periodic Sum(LIPS)法と高速フーリエ変換(FFT)を組み合わせた新規の分子間相互作用計算手法)を用いて世界で初めて可能となった帯電系の自由エネルギー描画を、pH一定のMD法(CpHMD)との組み合わせ(LIPS/FFT-CpHMD)においても可能とするための理論構築・プログラム開発・実装を行った。 一方で、高分子電解質水溶液系のような巨大分子系の長時間挙動を定量的に追跡するためには、全原子および粗視化MDとの合理的な連携が有望だが、その効果的な接続法はいまだ確立されていない。そこで、複数の有望な粗視化モデルと全原子MDとの相互接続による高分子物性の定量的予測を試みた。いくつかの代表的な高分子物性は十分に定量的な予測が可能であることを示した。 以上の知見は、高分子電解質溶液系の分子論的解決をめぐる今後の科学的・技術的発展のための重要な足掛かりとなると期待している。
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