研究課題/領域番号 |
16H06073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
妹尾 拓 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (10512113)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知能ロボティクス / 機械力学・制御 / センサフィードバック |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果をサブテーマごとに以下に示す. (A) 高応答性を追求した二足ロボットの開発:走行・跳躍・空中転回で要求される関節速度やパワーについてシミュレーション解析を行うことで,アクチュエータの巻線・イナーシャ・放熱など物理的構造について総合的に検討し,新規にアクチュエータを試作した.特に,従来ではギア疲労強度がボトルネックになって最大トルクが制限されていたため,容量の大きい型番のギアを採用した.また,巻線密度を向上するために,隙間なく巻くことが可能な四角い形状の巻線を使用した.これにより,30mm角で長さ80mmのサイズのアクチュエータを開発し,最大トルクの向上を達成した.以前よりサイズアップしたことに伴い質量は増加しているが,重量比に対するトルク出力は以前と同等の水準を保っている.周辺システムとして,ロボット搭載用と環境設置用の両方の高速ビジョンシステムを構築した.リアルタイムコントローラと画像処理計算機との通信環境もセットアップした. (B) 非ZMP規範の二足制御手法の確立:環境に設置した高速ビジョンによる二足ロボットのバランス制御を実現した.外部視点のビジョンによって,ロボットの全体姿勢と路面状況を含む大域的画像が取得可能なため,特徴点抽出に基づいたキャリブレーションフリーのビジュアルフィードバック制御手法となっており,走行動作へ実装することで有効性を示した.また,着地の衝撃を軽減するための塑性変形ベースのインピーダンス制御手法を提案し,シミュレーションにより有効性を確認した. (C) アスリートレベルを目指した二足運動の実現:脚運動の基礎となる高速走行を実現した.接地状態において地面を蹴る高負荷状態での高トルクと,空中で脚を着地姿勢へ復帰する低負荷状態での高速度の重要性に着目し,アクチュエータ特性に合わせて動作タイミングを調整する軌道生成手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,個別デバイスの開発や周辺システムの構築を中心におこない,サブテーマごとの状況もほぼ当初の計画通りに進行している. (A) 高応答性を追求した二足ロボットの開発:従来のロボットハンドで開発してきた軽量小型高トルクのアクチュエータをベースにし,脚運動における接地期と滞空期の相異なる負荷特性を達成するようカスタマイズした.また,脚運動では自重支持と蹴り力の両方が要求されるため,トルク重量比を維持しつつ最大トルクを向上したアクチュエータを新規に開発した.以上から,開発した要素技術を用いて二足走行機構を設計する段階に到達した.また,運動系だけでなく感覚系・処理系の高速化を図るため,ビジョンシステムや通信環境などの周辺設備も併せて整備したことで,統合システムの構築へ向けて進む段階に到達した. (B) 非ZMP規範の二足制御手法の確立:二足ロボットにおいて根幹的な技術である姿勢安定化に関して,環境視点に設置された高速ビジョンを用いることで,転倒しそうになったら走行軌道を修正して安定範囲への回復動作を繰り返すフィードバック主体の制御を実現した.この手法は,従来のように厳密な軌道を事前に計画する制御手法とは異なり,簡易で直観的な軌道設計を可能とした.以上より,ロボット搭載視点のビジュアルフィードバック制御に向けて進む段階に到達した.また,従来のインピーダンス制御とは異なる塑性変形ベースの衝撃吸収制御をシミュレーションで実現したことから,実機による検証および力覚フィードバックも導入したマルチモーダルな制御手法を確立する段階に到達した. (C) アスリートレベルを目指した二足運動の実現:人間のようにアクロバティックな脚運動を実現するために,基礎的動作となる高速走行の動作戦略の提案と実機による実証をおこなったことから,空中転回などの複雑な身体運動へ取り組む段階に到達した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策について,次年度では統合システムの開発および制御手法の実装とタスク遂行を並行しておこない,サブテーマごとに以下の方針で進める. (A) 高応答性を追求した二足ロボットの開発:本年度に設計したアクチュエータを用いて,二足走行機構の開発をおこなう.軽量化・省配線化をおこなうと同時に,回転運動を阻害しないケーブル引き回しや,衝撃緩和と滑り防止を実現する足裏の柔軟特性・摩擦特性についても検討する.二足走行機構およびトレッドミルをリアルタイムコントローラと統合し,全体システムを構築する.開発した二足ロボットの検証・評価をおこない,改造すべき点をまとめる. (B) 非ZMP規範の二足制御手法の確立:二足ロボットに搭載した高速ビジョンによって,バランスを制御する手法を提案する.搭載ビジョンの視点から得られた環境情報を基に,基準となる固定環境の画像変化からロボットの状態を推定する制御手法について検討する.二足ロボットの運動性能を低下させないよう,二足メカニズムへ搭載する高速ビジョンは軽量小型のものが望ましいことを考慮し,センササイズや解像度の低下に対しても十分な精度を確保するために,ビジョンの高速性を利用した時系列画像統合やイメージモザイキングによる精度向上について検討してロバスト性の向上を図る. (C) アスリートレベルを目指した二足運動の実現:アクロバティックな運動として,空中転回(2次元の前方回転)を実現する.空中では重心回りの角運動量が保存するため,脚の屈伸による慣性モーメント変化を利用した空中姿勢制御に焦点を当てる.本年度で実現した助走と着地を空中転回の前後に導入することで,高速走行と空中転回をシームレスにつなぐ運動を実現する.また,後方回転や多重転回についてもシミュレーションで検討し,要求されるパワー・速度・加速度等について解析をおこなう.
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