本研究は、臓器を物理的に切断し、1細胞サイズまで微小分割することで、立体的な臓器を空間的に「3次元分解」する新たな解析技術の確立を目指す。これまでにシリコンナノ加工技術により実現した独自技術であるシングルセルの一括切断技術をベースに、脳・腎臓等の様々な臓器を細胞レベルまで空間的に分割することで、多様な組成をもった微小臓器断片を得る(臓器空間分画技術)。得られた空間画分を網羅解析することにより従来の方法では到達できなかった臓器内の生体分子の定量的な3次元空間分布「臓器内生体分子3次元マップ」の解明に繋げ、医学・生命科学研究に革新的な解析技術を提供することを目的としている。 臓器空間分画技術による臓器微小断片の大量取得を期間内に実現するため、以下の項目について実験技術の構築と検証を行った。(1)生体から摘出した臓器を物理的に分割する刃状構造体(ナノブレード)を有した空間分画デバイスの製作、(2)臓器サンプルへの正確なアプローチと確実な切断を実現する切断・送り機構の構築、(3)モデル臓器であるマウス脳・腎臓スライスを利用した、空間分画の原理実証とイメージングによる分画状態の検証。本年度は切断を確実にするためのブレード先端鋭利化手法を開発するとともに、ドライな環境下で微小サンプルを切断回収するための機構の開発に取り組んだ。また、空間分画技術から派生した周辺技術として1細胞解析に向けた様々なマイクロ流体デバイスの開発を行い、血中がん細胞の挙動を解析するための微小血管モデルや、iPS細胞の分化誘導デバイス、敗血症における腎微小環境を再現するデバイスなどを開発した。
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