本研究では、三次元カイラルフォトニック結晶共振器を利用して、カイラル構造による円偏光制御と円偏光による固体中のスピン制御を融合することにより、円偏光を介して幾何学的な構造カイラリティの左巻き右巻きによって単一スピンの上向き下向きを制御することを目的としている。最終年度であった当該年度では、初年度から継続してきた円偏光共振器の構造設計に基づいて、三次元カイラルフォトニック結晶共振器を作製し、昨年度に実現した共振器量子電気力学におけるパーセル効果を確認した上で、強結合状態の実現を目指した。 しかし、共振器内の光子と量子ドット内の励起子との弱結合状態を示すパーセル効果の再現において、当初の想定に反して、試料作製で最も重要な工程における電子線顕微鏡の使用により、再現性が著しく低下していることが判明した。そこで、光学顕微鏡を用いた試料作製工程の開発について、研究期間を延長して取り組んだ。その結果、パーセル効果の再現に成功し、さらにフォトニック結晶構造を大きくしてQ値を改善することで、強結合領域への実現可能性を見出した。これらの研究成果は、4件の国際会議と12件の国内会議(内2件は招待講演)で発表したほか、蘭国の教授との国際共同研究による学術論文を1編出版した(さらに1編を準備中)。また、研究成果を出した学生1名が国内学会で奨励賞を受賞した。 本研究期間中に所属機関を異動し、助教ながら研究室主宰者として独立したことや予算充足率のために、当初予定していた強磁場印加装置の導入を見送った経緯もあり、研究目的のすべては達成できなかったものの、多くの研究目的を実現することができた。
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