研究課題/領域番号 |
16H06086
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
玉山 泰宏 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50707312)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 応用光学・量子光工学 / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
金属構造と光誘起構造の融合体で構成されるメタマテリアルを用いて電磁波の動的制御を実現するために、本年度は、光キャリア励起によるメタマテリアルの特性の時間変化について評価した。メタマテリアル中の半導体に励起用パルスレーザー光を照射し、メタマテリアルの透過率の時間変化を測定したところ、予想よりもはるかに小さな透過率変化が観測された。この原因は、半導体中に励起された光キャリアの寿命が非常に長いことであると予測し、この予測を検証するために、パルスレーザーではなく、連続波のレーザーを励起用レーザーとして用い、その照射・非照射による透過率の変化を測定した。その結果、パルスレーザー光を照射したときよりも大きな透過率の変化が観測されたため、前述の透過率変化の小ささは光キャリア寿命の長さによるものであることがわかった。このため、電磁波の動的制御のためには、光キャリアの寿命、すなわち、半導体の不純物密度を適切に設定する必要があることがわかった。半導体の不純物密度の最適化は次年度に行うことにした。これまでの実験結果から、半導体の光励起に伴うメタマテリアルの応答の過渡変化について詳しく調べる必要があると考え、赤外光領域での電磁波の動的制御を実現するためには、マイクロ波領域における予備実験が必要であると判断し、そのための実験系を構築した。実験系の概略としては、マイクロ波メタマテリアルは導波管内に配置し、導波管内でメタマテリアルへの励起光およびマイクロ波(信号光に相当)の照射を行うというものである。来年度は、まず、この実験系を用いて、マイクロ波の捕捉および再生を実現してから、赤外光の捕捉および再生の実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、光照射により誘起される構造を含むメタマテリアルにおいて、光キャリアを励起した際のメタマテリアルの応答の過渡変化の評価を始めた。光キャリアの励起により、メタマテリアルの応答が変化するところまでは確認できている。しかし、応答変化の大きさや時間および高速化についてより詳しく調べる必要があると考え、当初の予定には無かったマイクロ波領域における予備実験を行うことにしたため、計画はやや遅れ気味となっている。マイクロ波領域においては、試料作製や実験が比較的容易であるため、マイクロ波領域における予備実験を行った方が確実に研究が進むと考えている。一方、メタマテリアルの特性を評価するための実験系の構築は順調に進んでいる。当初予定していた赤外光領域におけるメタマテリアルの特性評価の実験系に加えて、研究を行う中で新たに検討することとなったマイクロ波メタマテリアルによる電磁波の動的制御のための実験系も構築できている。また、電磁界シミュレーションによるメタマテリアルの特性の解析結果と実験で得られる特性の差についても検討できており、シミュレーションと実験の差を考慮してシミュレーションを行うことにより、効率よくメタマテリアルの作製ができるようになっている。当初の計画に無かった実験を加えることもあり、やや遅れ気味の進捗状況にはなるが、確実に研究を進めるという観点では、より良い計画に修正して研究を進めることになると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、赤外光領域での実験を一時中断し、マイクロ波領域において同様の実験を行うところから始める。マイクロ波領域において光キャリアの励起によるメタマテリアルの応答の時間変化を詳しく調べ、それをふまえたマイクロ波の捕捉および再生実験を行う。メタマテリアルの応答は波長に対するスケーラビリティを有するため、赤外光領域のメタマテリアルのサイズを単純に大きくすることにより、同様の応答を示すマイクロ波メタマテリアルを得ることができる。作製したマイクロ波メタマテリアルに励起用レーザー光を照射した際の透過率の過渡変化を、様々なキャリア密度の半導体を用いた場合に対して評価し、電磁波の捕捉と再生に適した条件を見出す。そして、実際にメタマテリアルに照射する励起レーザー光を制御することによって、マイクロ波の捕捉および再生が実現できることを示すとともに、メタマテリアル中へのマイクロ波の保存可能時間についても評価する。この実験の後に, 赤外光領域で同様の実験を行う。マイクロ波領域での実験をふまえて、光キャリア励起のために用いる半導体を選択する。赤外光領域において信号光と励起光のメタマテリアルへの照射タイミングを制御するために、信号光の伝搬路に可変ディレイラインを構築する。励起光のメタマテリアルへの照射位置や、信号光捕捉用および再生用の励起光パルスの時間間隔を変化させた時の、透過信号光パワーの時間変化を測定することにより、赤外光の捕捉および再生ができることを実証する。
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