ゲートにパルス電圧を印加することで、電子正孔再結合を誘導する「チャージポンピング法」は、MOSトランジスタの界面欠陥を評価するために広く用いられている。しかしながら、同手法で検出される界面欠陥の種類(結合の構造)は、磁気共鳴法が必要となるために、これまで明らかではなかった。また、チャージポンピングの詳細なプロセスについても十分に理解されていなかった。 これらの課題を解決するために、これまで本研究課題では、チャージポンピング法と電子スピン共鳴法とを組み合わせたチャージポンピングEDMR(Electrically detected magnetic resonance)法を立ち上げ、シリコン/シリコン酸化膜界面の主要な欠陥(PbセンターとE'センター)がチャージポンピング過程に寄与していることを明らかにしてきた。令和元年度は、低温下でのチャージポンピングEDMR測定を継続して行い、以下の成果を得た。 1. チャージポンピング過程におけるスピンに依存した再結合モデルの提案。EDMR信号の強度(ピーク高さ)と測定温度の依存性を取得し、詳細に解析したところ、2つの電子スピンがペアを形成するというモデルを用いることで、チャージポンピングの再結合過程を説明できることが明らかとなった。これらの成果を学術論文にまとめ、報告した。 2. MOSトランジスタ中のヒ素(As)原子の検出。トランジスタのチャネル端に電気的な手法を用いて局所的に界面欠陥を生成させ、このトランジスタに対してチャージポンピングEDMRを実施した。この結果、ソース・ドレイン領域のヒ素原子に由来する信号が検出された。ピーク強度の詳細解析から、ヒ素原子の電子がその近傍の(チャネル端で生成した)界面欠陥の電子とスピンペアを形成し、低温下のチャージポンピング過程に寄与していると結論づけた。
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