2019年度は大きく分けて2つの成果をあげることができた. <一般確率論におけるParallel Repetition定理の発展> Parallel Repetition定理とは,暗号理論における多証明者対話証明や物理におけるベルの不等式等において,複数回の試行をまとめて行った際の不正成功確率が指数的に減少することを主張するもので,証明が非常に困難である.近年,Parallel Repetition定理の一般確率論における相関,すなわち光速より速い通信はできないという制約のもとで実現できる相関,を証明者が共有している状況への拡張が活発に研究されている.一方,申請者は2018年度の研究において,マルチユーザネットワークにおける符号化の新たな性能評価の手法を確立した.マルチユーザネットワークにおける符号化と,Parallel Repetitionで考えている状況は一見すると異なっているように見えるものの,共通の数学的構造を持つことが伺える.このような考察に基づき,2019年度の研究では,証明者が3人以上いる際のParallel Repetitionに関して,従来より初等的な証明を与えることに成功した.
<区間分割に基づく乱数生成アルゴリズムの性能評価> 暗号通信や物理シミュレーションにおいて,乱数列を高速に発生させることは極めて重要な問題であり,様々な研究が行われてきた.本研究ではHanとHoshiによって提案された区間分割に基づく乱数生成アルゴリズムについて考察した.このアルゴリズムは,非一様な乱数列から非一様な乱数列n直接変換できる特徴があるが,入力分布にメモリがある場合の性能評価が十分に行われていなかった.そこで本研究では,分布の性質に仮定をおかずに性能解析が可能な情報スペクトル的方法を適用することで,広いクラスの入力乱数に対して区間分割に基づくアルゴリズムは最適な性能を有することを明らかにした.
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