研究課題/領域番号 |
16H06096
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
千々和 伸浩 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (80546242)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 液状水 / 波形鋼板ウェブPC橋 / 接合部 / 繰り返し荷重作用 |
研究実績の概要 |
昨年度の実験では,鋼コンクリート接合部における水に関わらず,両者とも大きな違いは見られない結果となったため,今年度はこの原因について分析から着手した.数値解析を用いた実験結果を分析した結果,軸方向にプレストレスが作用しており,コンクリートと鋼の間に相対ずれが生じにくい状況に保たれている場合,界面への水の浸入が抑制され,スラッジが発生しないことがわかった.そこでプレストレスの拘束力を超える荷重を作用させ,コンクリートに曲げひび割れを導入したところ,曲げひび割れ面や鋼板とコンクリートとの界面やスラッジが噴き出すようになった.しかしながらスラッジの量は時間とともに減少し,界面の破壊もほとんど進まないという,当初の予想と異なる結果となった. 数値解析による分析を再度行ったところ,実験で見られたようなスラッジが生じても,それがたわみ増加に寄与する程度は微小であることが明らかになった.実験で用いた波形鋼板ウェブPC部材の部材厚さは15㎝程度しかなく,鋼やコンクリートの界面での水圧上昇が抑えられることがこの原因であると考えられ,液状水作用による急速な定着部の破壊を抑制する上では,排水による液状水浸入を防ぐとともに,浸入した水を速やかに外部に排出することの重要性が明らかになった. 鋼-コンクリートの界面への水の浸入と破砕が液状水による破壊促進の主原因であることから,これを低減させるような材料設計についても昨年度より検討を行っており,今年度は特に特殊材料の設置位置を変えることで,接合界面の応力状態がどのように変化し,液状水による促進作用を抑えるのかについて検討した.本検討結果から鋼-コンクリート界面で起きている現象も明らかになりつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既往の知見から液状水が鋼板ウェブ接合部に存在する場合,急速な劣化が生じる可能性が高いと推測され,本研究はスタートした.しかしながら昨年度及び本年度の研究結果からは,それに一定の発動条件があることがあることが明らかになりつつあり,当初計画とは異なる方向に研究が進みつつある.例えば,鋼とコンクリートの異種材料界面でのずれ拘束の程度や,内部浸入した水が存在する空間の閉塞程度などは,風車基礎を念頭に置いた既往の知見でも影響因子の一つ示されていた条件ではあったが,必ずしも支配的なものとは考えられていなかった.しかし今回の研究で先行研究と異なる実験条件で実験を行うことで,これらの影響因子も無視できない影響を持つことが明らかになり,メカニズムの理解とともに,より根源的な対策案の立案にもつながりつつあると考えている. 液状水作用を抑制する材料の開発については,昨年度の成果を更に発展させて,より合理的に効果を発揮できるような条件を絞り込みつつある.この検討結果は,現在の土木工学の設計が暗に前提としている条件とは必ずしも一致しないものであるが,これまで数十年間程度,見直されることがほとんどなく,あたかも所与の条件とみなされつつある構造細目や材料規格について,見直しが必要なことを示唆する成果であると捉えている.昨今では数値解析技術が大きく発展しつつあり,既往の設計手法の枠に縛られない設計も可能となりつつある.次年度が最終年度となるが,次世代の設計を考えるための重要なヒントを含む研究として,研究を一層深化していきたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
中規模試験体を用いた実験結果から,波形鋼板ウェブ橋梁の接合部において,液状水による急速な界面劣化は生じないことが明らかになった.しかしこれは実験条件に由来するものである可能性も高いため,今年度はこれまでに得られた実験結果をキャリブレーション対象とした数値解析を用いた詳細解析を実施し,劣化加速条件の発現条件を明らかにし,波形鋼板ウェブPC橋の合理化における注意点を明らかにする.このためBiotの二相モデルを核とする数値解析により,空隙や異種材料界面での水の動きを詳細にモデル化することで,波形鋼板の形状や埋込深さ,界面の性状などの影響について分析を進める予定である.また液状水による破砕加速に抵抗するための対策工法についても,実験と解析を併用して研究を継続する予定であり,次世代での規格化を念頭に据えて,既存の規格に捉われない対策工法の提案を考えている.
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