本研究では,高周波誘導加熱装置やシート状セラミックヒーターなどの簡易な熱源を使用して部材を局所的に加熱・冷却することで,部材の構造性能にとって有利となるような残留応力分布を自在に生成する方法を提案するとともに,部材にとって有利な残留応力分布を自在に生成することで,部材の耐荷性能および耐疲労性能を向上させる熱処理技術を構築することを目的とすして,一連の検討を実施した. 広範囲を均等に加熱できるシート状セラミックヒーターと,局所的な急速加熱が可能な高周波誘導加熱装置を組み合わせて,鋼部材に任意の残留応力分布を生成させるための条件を特定するため,有限要素法による非定常熱伝導解析・熱弾塑性解析を駆使して効率的に検討を行った.シミュレーションにより,どの部分をどのように加熱すればいかなる残留応力分布が生じるのかを予測し,目標とする残留応力分布を得るための加熱条件について検証した. 熱処理により残留応力分布を制御した供試体と,溶接のままで熱処理を適用しない供試体の耐荷力および疲労寿命を比較し,それぞれの性能がどの程度向上するかを定量的に明らかにした.セラミックヒーターを用いた熱処理については,無補剛箱型断面供試体を溶接により作製し,外面からヒーターを近接させ600℃程度に加熱,保持することで残留応力を低減する方法を提示した.残留応力を低減した供試体の圧縮耐荷力は,熱処理なしの供試体に比べ耐荷性能が向上することを確認した.一方,高周波誘導加熱装置を用いる技術として,面外ガセット継手を対象に,ガセットプレート周辺を350℃程度に加熱することで,残留応力を低減する方法を提示した.残留応力の低減により,加熱なしの場合に比べ疲労寿命が長くなることを疲労実験に基づき確認した.
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