成熟型社会における建築ストックの有効活用を命題に,事業継続性を担保できる低負荷な耐震補強法を開発に取り組んだ.本補強法の特徴は,既存骨組の損傷限界を決定する脆弱箇所の変形を集中的に低減し,耐力の上昇を抑えながら骨組全体の耐震性能を高めることにある.脆弱箇所の変形低減効果を設計で十分に考慮するためには,低負荷な耐震補強法に見合った設計法を開発しとその効果を実証した.具体的には下記の課題に取り組んだ. 複数の性能目標をもつ耐震補強設計法の実証:鋼骨組を対象に、地震力を受けたときに弾性域にとどまる場合、梁端部が塑性化する場合、梁端部が破断するなど大きく損傷した場合、の各状態について独立した性能目標を設定できる耐震補強法を構築してきた。実大規模の試験体を対象とした耐震補強実験の結果を利用して、提案する設計法ならびに各損傷状態に対して導出した設計式の精度を検証した. 設計法の一般化検証:階数やスパン数,および部材の断面性能を変化させた骨組モデルに対するパラメトリック地震応答解析により,提案する設計法の適用範囲を検証した.さら,現行の耐力や剛性の上昇を指向する耐震補強法との比較により開発した設計法の優位性を示し,提案設計法の体系化に挑んだ. 上記の課題への取り組みを通して,1)多段階の性能限界を設けた場合の局所耐震補強設計式の提案と実証,2)補強効果の確率的評価および費用対効果に基づく設計,に関する2編の論文を国際学術論文誌(査読付き)および国内学術論文誌(査読付き)に発表した.
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