研究課題/領域番号 |
16H06114
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村川 寛 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40611744)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ワイル半金属 / 巨大磁気抵抗効果 / 高移動度大型単結晶 / ベリー位相 |
研究実績の概要 |
ワイル半金属TaAsとNbAsの大型純良単結晶の合成を行った。合成方法を改良することにより従来1mm3程度に制約されていた結晶サイズから1cm3への大型化に成功し、様々な結晶軸方向について形状効果を排除した試料整形(縦横比1:20以上の直方体)が可能となり、これまで実現されていなかったワイル半金属に固有の輸送特性の測定が可能となった。阪大強磁場センターにおいて50テスラまでのパルス強磁場測定を行い、TaAsの量子極限状態においてホール抵抗率にプラトーが出現することを発見した。また、NbAsにおいて精密に磁場方位を制御することにより、非散逸電気伝導を示唆する明瞭な負の磁気抵抗効果を観測した。量子振動の解析から、サイクロトロン軌道内のワイル点の数に応じてベリー位相がπから2πへ変化することを発見した。また、量子振動のピーク解析の際に電気伝導率と電気抵抗率のどちらを基準とするかで議論が別れていたが、今回作成した大型単結晶を用いて磁化率と電気抵抗率の量子振動ピーク位置を比較することにより、ホール角の大きさによらずに「電気抵抗率」がバルク物質の位相解析の基準となることを示唆する結果を得た。さらにNbAs2の高品質単結晶を合成し、40テスラで200万倍に達する巨大な磁気抵抗効果を観測した。この値は、近年世界的に報告が相次ぐ様々な半金属の磁気抵抗効果よりも2桁程度大きいものであり、移動度が桁違いに高くなったことを示している。特にこれまで注目されていなかった低磁場領域における磁気抵抗効果の大きさ(0.02テスラで4倍)が顕著である。この結果は、「高い」と評されていた従来半金属の移動度が実際にはまだ不十分な値であることを示すとともに、結晶の品質を向上させることにより半金属の磁気抵抗効果をさらに飛躍的に増大させられる可能性を示すものである
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の遂行に必要なワイル半金属単結晶の大型化に成功した。これにより形状効果を排除した状態でワイル半金属の本質的な輸送特性の測定が可能となった。電場磁場方位に敏感なワイルフェルミオン固有の物性測定に必要な磁場中試料回転機構を構築し、カイラルアノマリーを示唆する負の磁気抵抗効果を観測した。様々な結晶軸方向へ電場や磁場を印加して伝導特性を詳細に測定し、フェルミ面の特殊な形状を反映した磁気抵抗効果の異方性を観測した。さらに阪大強磁場センターにおいて50テスラまでのパルス強磁場下での測定を行い、バルク物質でありながら量子極限状態においてホール抵抗率にプラトー構造が出現することを発見した。また、半金属結晶の高品質化により移動度を従来の報告例と比べて桁違いに上昇させることにより、40テスラで200万倍に達する巨大な磁気抵抗効果の発現に成功した。スピン偏極電子状態の証拠となるベリー位相の評価について、磁化率と電気抵抗率の量子振動ピークを詳細に比較することにより、バルク物質においてホール角に関係なく電気抵抗率が位相解析の基準となることを示唆する結果を得た。それに基づいた量子振動のピーク解析から、サイクロトロン軌道内のワイル点の数に応じてベリー位相がπから2πへ変化するワイル半金属固有の現象を発見した。このように、当初の計画に沿って研究を着実に進めるとともに、測定を通して予想を超えた現象を発見することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
フェルミレベルを制御した高移動度単結晶を合成し、フェルミ面が囲むワイル点の数を自在に制御する。磁場方位操作によってサイクロトロン軌道が囲むワイル点の数やスピン立体角が異なる環境を実現し、軌道周回の際のスピン回転角やランダウ準位構造の変化を量子振動の解析により検出して、理論計算との比較を通してベリー位相がπから2πへ変化する際の詳細を明らかにする。精密に方位制御した磁場下で様々な結晶軸方向についてカイラルアノマリーを測定し、量子振動の解析と第一原理計算結果との比較から非散逸伝導の起源となるフェルミ面を特定する。また、磁場方向に対する電気伝導特性の非相反性の観測、量子極限状態において観測されるホール抵抗率のプラトー構造の起源解明や、平均自由行程の極めて長い試料を用いた表面バルク結合状態の検出などワイル半金属に固有の新規現象の研究に取り組む。さらに、キャリア密度を制御したラシュバ型半導体BiTeIやノーダルライン金属PbTaSe2などの空間反転対称性の破れたトポロジカル物質単結晶の合成を行い、電場磁場応答現象を調べるとともにNMR法を用いたパリティ混成超伝導状態の研究も行う。
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