研究課題/領域番号 |
16H06115
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
谷口 博基 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80422525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 誘電体 / 酸化物 / シリケート / アルミネート / 強誘電性 / 焦電性 / 構造相転移 |
研究実績の概要 |
本研究は、地球上に最も豊富に存在する酸化物であるシリケート及びアルミネートを用いて、新しい機能性酸化物の創出に取り組むものである。地殻に存在するシリケートやアルミネートは主に酸素四面体構造を基本構成要素とする結晶構造を有するが、このような酸素四面体系物質における物質設計指針は確立されていない。そこで本研究では、酸素四面体系物質の特徴を活かした新しい物質設計指針、いわば酸素四面体エンジニアリングの確立に取り組む。本研究の成果によって、優れた機能性を備えた新しいシリケート及びアルミネートが創出され、環境に優しい次世代の科学技術への道筋が切り拓かれると期待される。 今年度は、シリケートとしては前年度より研究開発に取り組んでいる層状パイロキシン型酸化物(Bi1-xLax)2SiO5(x=0~0.1)に加えて、Bi2(Si,Al)O5化学量論比ガラスにおける高誘電率ガラスの開発に取り組んだ。本課題においては、系統的に合成した物質系に対して誘電測定を実施し、誘電特性の評価を行った。一方アルミネートとしては同じく前年度より研究開発に取り組んでいる充填アルミネートゼオライト型酸化物(Ca,Sr)8[AlO2]12(MoO4)2に加えて、(Ca,Sr)8[AlO2]12(SO4)2に新たに着目して系統的な物質合成を行い、粉末X線回折、誘電測定、焦電測定を実施した。さらにSPring-8における高輝度X線回折を用いた温度スイープ測定を実施することによって、本物質系の正確な相図を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
層状パイロキシン型酸化物: (Bi1-xLax)2SiO5(x=0~0.1)における構造-物性相関を明らかにするために、KEKにおいて精密放射光X線構造解析を実施し、温度及びLa置換量の関数として(Bi1-xLax)2SiO5(x=0~0.1)の結晶構造の変化を調べた。その結果、La置換にともなって結晶構造中のSiO4一次元鎖の構造が乱れ、その結果として強誘電性が消失することを明らかにした。それによって、Bi2SiO5の強誘電性発現においてSiO4一次元鎖及びその構造を維持するための孤立電子対が重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、Bi2SiO5の強誘電相において未報告の新たな相転移を発見し、その相転移が同じ対称性間のユニークな相転移である可能性を見出した。さらに、高誘電率ガラスの新規開発を目的として無容器浮遊法によってBi2(Si,Al)O5化学量論比ガラスを合成し、誘電測定を実施した。その結果、比誘電率で40を超える、ガラスとしては極めて誘電率の高い材料を発見するに至った。 充填アルミネートゼオライト型酸化物: 充填アルミネートゼオライトはA8[Al12O24](XO4)2の組成式で表されるが、今年度は前年度に引き続いてA=Ca,Sr、X=Moに加えて、新たにX=Sを対象として系統的な物質合成と基礎物性計測による物性相図の作成、さらに焦電素子材料としての物質特性の評価を実施した。合成は一般的な固相反応法によって行った。さらにSPring-8における高輝度X線回折を用いて、100K-1100Kの広い温度範囲においてスイープ測定を実施し、精密な構造相図を作成した。その結果、X=Sの系においてユニークな散漫相転移に加えて複数の新たな構造相転移を発見するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
層状パイロキシン型酸化物: Bi2SiO5を軸として、異種元素置換による新規強誘電体物質系の探索を継続して実施する。得られた試料に対して、誘電測定及び粉末X線回折を実施することで、物性相図を作成する。また、種々の元素置換を施しBi2SiO5系ガラスを作成し、引き続き高誘電率ガラスの探索を実施する。得られた試料に対して、誘電測定及びⅩ線回折と計算を組み合わせた局所構造解析を実施することで、局所構造-物性相関を明らかにする。 充填アルミネートゼオライト型酸化物: 今年度はフレームワークを形成するAlサイトに異種元素置換を施した系に物質探索範囲を拡張し、系統的な物質合成と基礎物性計測による物性相図の作成、さらに焦電素子材料としての物質特性の評価を実施する。また、精密構造解析を目的として、適宜放射光X線による回折実験を実施する。さらに、焦電発電素子としての性能評価にも並行して取り組む。
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