初年度に引き続き、Na-Sn融液を用いたNa-Siクラスレートの結晶成長条件の最適化を行った。その結果、500℃の加熱で、約3 mm角サイズの粒状のType Ⅰクラスレート単結晶が得られた。また、600℃の加熱では、一辺が約3 mmの三角板状のType Ⅱクラスレート単結晶が得られた。それぞれの単結晶の表面における結晶方位解析を行ったところ、TypeⅠの単結晶では{110}が、Type Ⅱでは{111}のファセット面が観察された。また、650℃の加熱ではクラスレートが生成せず、ダイヤモンド構造のSi結晶粉末が得られた。600℃以下の温度においても、長時間の過剰な加熱により、クラスレートがSiに分解することが明らかになり、本手法によるクラスレートの結晶成長においては適切な加熱条件の設定が重要であることが示された。 また、Siクラスレートでは、内包元素とケージ元素の組み合わせによって多彩な物性を示すことが知られている。そこで、Na-Siクラスレートのケージを構成しているSiの一部をGaで置換したところ、Type ⅠのNa8(Ga/Si)46クラスレートを合成することができた。単結晶を用いた結晶構造解析により、Ga原子はSiの6cサイトを優先的に占有することが明らかになった。また、Snをフラックスに用いることにより、Na8(Ga/Si)46クラスレートの結晶育成に成功し、最大で5 mm角サイズの単結晶を得ることができた。得られた単結晶を用いて電気的特性を測定したところ、Ga置換量の増加に伴い、電気抵抗値が増加する傾向が見られた。Na-Siクラスレートでは、元素置換により、電気的特性を幅広く制御できることが示された。
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