研究課題/領域番号 |
16H06127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
百瀬 健 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10611163)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ充填 / 有機半導体 / 超臨界流体 / プロセス / 有機薄膜太陽電池 |
研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池においてシリコン太陽電池並みのエネルギー変換効率を得るべく,検討が進められている。中でも,材料の新規開発による性能向上は盛んに議論されているが,構造に関しては平面構造からバルクヘテロ構造に移行して以来,進展していない。p型/n型有機半導体がナノスケールで櫛歯状に相互に貫入した3次元ナノ櫛歯構造は,従来のバルクヘテロ構造では達成できなかった高効率電荷分離と広接合面積による高変換効率が期待でき理想的とされているが,ナノ櫛歯構造へ有機分子を充填する技術がなく実現されていない。本研究では,超臨界流体を用いた有機分子の高アスペクト比構造への充填技術を発展させ,3次元pn接合を形成し,高変換効率をもつ3次元ナノ櫛歯型有機薄膜太陽電池を作製することを目的とする。 検討開始当初はアントラセンをモデル物資として検討を行ったが,成長速度が速すぎるため,ナノ薄膜を必要とする本研究には適さないことが分かった。テトラセンはアントラセンと分子構造が近く,これまでの知見が使用できるため,次のモデル物質として選定し,製膜に必要な溶解度データを取得した。 今年度はテトラセンによる製膜挙動の検討を行った。特に極薄連続膜形成に関しては,成長中に条件を操作(変更)する二段階成長に取り組んだ。これは,有機物の異種材料上への結晶成長(ヘテロ成長)では,まず核が発生し,核が成長することにより連続膜となり,同種材料上への結晶成長(ホモ成長)が開始されるため,極薄膜を得るには,核発生および核成長のそれぞれに適切な条件が必要なためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極薄連続膜を得るために数分間という短時間での成長を試みたが再現性に苦しんだ。極薄連続膜の作製には初期成長が重要であり,製膜開始直後から安定した制御が求められる。検討を重ね,製膜開始直後の流れが不安定であることを突き止めた。そこで,製膜チャンバーのバイパスするラインを新たに設置し,製膜直前まではバイパスを使って流れを安定させることで解決を図った。また,原料溶解は完全混合槽で行っていたが,容積が大きく温度を均一に保つのが難しかったため,カラムに変更した。これにより,原料溶解温度の制御性と溶解速度が向上した。装置改造を終え,具体的検討に進んだ。過飽和度は結晶化駆動力に大きく寄与すると考え,まず過飽和度を変化させたときの析出の様子を調べた。低過飽和度で析出した結晶は凹凸の少ない単純な形状となったが析出量は少なく,一方で高過飽和度にすると基板は被覆されたが結晶は凹凸の激しいデンドライト状となった。微細構造への埋め込みという目的から,結晶形は前者が理想だが,連続膜作製のため析出量を増やさなければならない。そこで,初期核形成のみ高過飽和度条件で行い,その後基板温度を上げ低過飽和度条件へ移行することで,初期核を中心に低速で結晶成長させる二段階成長の試みをした。結晶成長段階の過飽和度の値が小さくなるにつれ形状はデンドライトの傾向が弱まっており,二段階成長プロセスの意図を達成できていることがわかった。さらに,長時間成長させることで,形状は変えずに核密度を下げ,サイズを大きくすることにも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
原料の高速度供給が流体中における粉体形成を抑制し,原料を成長基板表面に供給するためには重要であるとの知見を得ており,ポンプの高流量化を図った。ポンプのインストールまで完成しており,次年度は流量依存性を検討し,無用な粉体形成を抑制しつつ,極薄膜形成および埋め込みを検討していく。
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