研究課題
本研究は,割れ目充填鉱物と変質鉱物の生成時期・温度条件および岩石学的な特徴の相違を把握することで,二次鉱物の生成をもたらす流体の化学的特性の長期変遷の解明を行う。本研究は,土岐花崗岩体を対象とし,以下のSTEP1-3を経ることで,平成28-31年度の4ヶ年で達成する計画である。【STEP1】花崗岩の形成と発達に係る熱進化モデルの構築 【STEP2】流体の情報を保存する割れ目充填鉱物と変質鉱物の岩石学的情報と形成温度・年代の解明 【STEP3】流体の化学的特徴の長期的な変遷の解明平成28年度は【STEP1】を中心に実施した。その中で第一に『ジルコンの持つU-Pb年代,カソードルミネッセンス(CL)像,Ti濃度の解析に基づく,花崗岩体の高温条件下でのt-T pathの取得』を実施し,ジルコン成長の温度と時間変化について把握し,そこからジルコンの晶出をもたらす花崗岩質マグマの温度時間変化について明らかにした。この成果は,国際誌Journal of Mineralogical and Petrological Sciencesに公表した。第二に『アパタイトのFT年代と逆解析から得られる花崗岩体の低温条件下でのt-T pathの取得』を行った。上記でジルコンを扱った試料に対して,アパタイトのFT年代測定とFT長解析を実施した。これにより低温条件における熱履歴について解明することができた。この成果は「Spatial distribution of the apatite fission-track ages in the Toki granite, central Japan: Exhumation rate of a Cretaceous pluton emplaced in the East Asian continental margin」として,投稿を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は「研究実績の概要」で述べたように,「【STEP1】花崗岩の形成と発達に係る熱進化モデルの構築」に関する2つのテーマに対してデータ収集から論文化までを実施することが出来た。これらの2つのテーマはジルコンを扱った1篇の論文が国際誌で公表され,もう1篇のアパタイトを扱った論文も国際誌に投稿に至った。また,電子顕微鏡(JEOL社製IT100)とカソードルミネッセンス観察装置(Gatan社製Mini-CL)を1月に導入した。これによりさらなる追加データの取得が可能となり,今後のデータ収集を加速させることが期待できる。当初計画では熊本大学での分析や打合せを計画していたが,4月に発生した熊本地震の影響で計画を修正した。その分を利用し「【STEP2】流体の情報を保存する割れ目充填鉱物と変質鉱物の岩石学的情報と形成温度・年代の解明」中の課題である変質鉱物の年代データの一部を先行して取得した。当初計画以上の成果として,花崗岩体中に広く観察される変質鉱物である斜長石中のイライトに関して岩石学的な知見を収集することが出来た。以上のことを総合的に勘案し,「おおむね順調に進展している」と判断した。
平成29年度以降は,STEP1の最後のテーマとSTEP2,STEP3を順次実施する。最終年度に,STEP1とSTEP2のデータを統合し,花崗岩体中の流体特性の長期変遷について明らかにする計画である。平成29年度はSTEP1の最終段階として,平成28年度に取得した「ジルコンから導き出される高温条件でのt-T path」と「アパタイトから導出される低温条件でのt-T path」で得られたデータに,その中間の温度条件に位置するジルコンフィッション・トラック年代と黒雲母K-Ar年代(既存データと新規取得データ)を統合することによって,高温から低温までの連続的なt-T pathを取得する。次に各領域のt-T pathが示す冷却速度の相違や類似性を検証し,花崗岩体の熱進化モデルを構築する計画である。また平成29年度に扱うSTEP2のテーマとして,割れ目充填鉱物と変質鉱物の中で,まずイライトと緑泥石に焦点を絞り,岩石学的および年代学的なデータの取得を行う。年代測定に関しては外部機関に依頼することを計画している。得られた成果は順次取りまとめ,日本鉱物学会や日本地質学会での学会発表を行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 111 ページ: 9-34
http://doi.org/10.2465/jmps.151007