研究課題/領域番号 |
16H06141
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 悠 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (40525812)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 睡眠 / マウス / 情動 / 記憶 / 遺伝学 / ウイルス |
研究実績の概要 |
睡眠構築(sleep architecture)とは、二種類の睡眠、レム(急速眼球運動)睡眠とノンレム睡眠が、一晩の間に交互に現れるパターンを指す言葉である。本研究では、睡眠構築を生み出す神経回路とその動作原理の解明を目指してきた。具体的には、レム睡眠を正と負に制御するニューロンをそれぞれ探索し、それらのニューロンによる睡眠の制御機構の解明に取り組んできた。本年度は、まず、これまでに橋において同定したレム睡眠を負に制御するニューロンに関して、そのトランスクリプトーム解析を行ったところ、これらのニューロンに選択的な遺伝子マーカーが同定された。さらに、同じマーカー遺伝子を発現するニューロンが中脳や延髄にも存在することに注目し、これらのニューロンについても化学遺伝学的な手法で機能を解析したところ、レム睡眠を負に制御することが判明した。なかには、これまで睡眠の制御への関与が知られていない脳領域も含まれていた。このように、マーカー遺伝子の発現に基づく手法で、新たに多くの睡眠制御ニューロンの同定に成功した。一方、レム睡眠を正に制御するニューロンに関しても、延髄と橋、それぞれにおいて1種類ずつ同定していたが、これらのニューロンの投射先をsynaptophysin-GFP発現ウイルスベクターを用いて調べたところ、シータ波の制御に関係するmedial septumや、筋弛緩の制御に関わる延髄腹側領域が含まれていた。 さらに、レム睡眠を正に制御するニューロンのうち、橋に存在するものに関しては、DTAを用いた遺伝的破壊により、レム睡眠を長期的に減少させることができた。この画期的なレム睡眠阻害マウスモデルを用いて、様々な行動実験を実施したところ、不安行動・うつ様行動・心的外傷後ストレス障害などに関連した行動課題で異常が検出され、レム睡眠の長期的な異常が情動や行動決定に大きく影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レム睡眠を正負に制御するニューロンに関して、当初想定していたよりも多くの脳領域で同定することができ、睡眠構築を制御する脳幹の広大なネットワークの存在が明らかとなった。さらに、レム睡眠を長期的に減少させたマウスについて、様々な行動実験を実施したところ、多くの異常が検出され、レム睡眠の長期的な操作が情動や行動に及ぼす影響の一端が明らかと成った。従って、本年度は計画通りに研究が進み、おおむね順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、レム睡眠を正負に制御する様々なニューロンが同定されたが、これらの一連のニューロンの活動と、レム睡眠やノンレム睡眠のタイミングの関係は依然不明なままである。そこで、これらのニューロンの活動様式を明らかにするために、暗期の途中・明期の途中・断眠(あるいはレム断眠)を実施したマウス等の脳標本を採取する。これらの脳標本に対して、各脳部位でのcFos抗体を用いた免疫組織化学を実施することで、活動様式についても知見が得られるものと期待される。さらに、これらのニューロンへ入力する上流のニューロンを解明するために、シナプス逆行性ウイルスベクターを用いて解析を行う。
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