研究課題
セロトニンの脳内動態の理解は、うつ病をはじめとした精神疾患の理解に重要であるが、セロトニンそのもの、またその前駆体/代謝物の局在マッピングは未達成である。従って、これら低分子の局在・動態も不明な点が多い。これまでに、本研究で確立した高感度イメージング質量分析により、うつ病モデルマウスでは、特定の神経核におけるセロトニン含有量が低下する事を示した。さらに、炎症により活性化したT細胞が、セロトニンの原料である芳香族アミノ酸を消費し、脳内芳 香族アミノ酸の減少を引き起こし、その結果、特定神経核におけるセロトニンの減少を引き起こすメカニズムを提示してきた。これは、うつ様行動を引き起こす、新しい免疫・神経の相互作用として論文報告している(Nat Immunol. 2017)。さらに正常マウスにおいてセロトニンのイメージング解析を行った。その結果、縫線核を始めとした主要な既知セロトニン神経核に加え、新たに複数のセロトニン集積脳領域を特定する事が出来た。さらに、このうち幾つかの神経核は、マウスがうつ状態になると、セロトニン含量が低下した為、うつ病の表現型に重要な役割を果たすと考えられる。また当該年度は、神経伝達物質代謝におけるニューロンとグリア細胞の代謝相互作用を探索した。この為に作出した、ニューロンと グリア細胞にそれぞれ特異的にチャネルロドプシン発現させたマウスを用い、これら異なる細胞種を光刺激した際の神経伝達物質産生能を、イメージング質量分析により評価した。その結果、アストロサイトの特異的刺激により、アセチルカルニチンが放出される事が示された。これは、新しい神経細胞栄養因子の可能性があり、脳のエネルギー代謝に重要な機能を果たしていると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画から前倒しして、セロトニン局在イメージング法の病態モデルへの適用を実施し、正常マウス、また複数のうつ病モデルマウス解析に適用する事が出来た。新しいセロトニン神経核を同定するに至り、その病態生理学的な意義を追及している。さらに、神経伝達物質代謝におけるニューロンとグリア細胞の代謝相互作用を探索し、アセチルカルニチンがアストロサイトから放出される新しい神経細胞栄養因子である可能性を示した。乳酸に加え、アセチルカルニチンのグリアから神経細胞への供給システムは、脳のエネルギー代謝に重要な機能を果たす基盤機構である可能性がある。
最終年度は、正常マウスにおけるモノアミン分布アトラスを完成させ、広く研究者が利用できるようにする。さらに、うつ様行動を示している際に、どの神経核においてセロトニン減弱が起きているかを明らかにする。抗うつ薬投与時のレスポンスについても記述を加える。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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