研究実績の概要 |
体細胞核移植法では体細胞核のエピゲノムを初期化し、クローン個体を作り出すことができるが、その効率は非常に低く未完成の技術である。これまでの申請者らの研究から、クローン胚の発生異常は、ドナー体細胞に存在するヒストン修飾の一種であるH3K9me3、および核移植後のXist 遺伝子の過剰発現が大きな原因であることを示している。また、上記の二つの異常原因を回避して作ったクローン胚でも、着床直後からは異常な表現型を示すことから、着床前の胚盤胞期には既にその後の発生異常の原因となるエピゲノム異常が存在することが強く示された。そこで、上記のようにして作製した胚盤胞期クローン胚のトランスクリプトームおよびエピゲノムを解析した結果、最近新たに発見されたヒストン修飾(H3K27m3)依存的なインプリント遺伝子が、クローン胚ではインプリント情報を失って両アリルから発現していることを発見した。実際に、微小スケールでのChIP-seq法を用いて着床前胚でのヒストン修飾(H3K27me3)の分布をゲノムワイドに解析した結果、クローン胚ではH3K27me3によるインプリント情報が失われていることを確認した。さらに、パブリックなデータベースを用いて、様々な体細胞でのヒストン修飾を解析した結果、ドナー体細胞の時点でこのインプリント制御に関わるヒストン修飾(母方アリルでのH3K27me3)が失われていることが明らかになった。これらの結果を国際誌に発表するとともに(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)、体細胞クローンによる初期化メカニズムに関する総説も発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 b)。 また、上記の結果をもとに、H3K27me3を人為的に体細胞およびクローン胚に導入するエピゲノム編集技術の開発に挑戦している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、計画していた通り、平成30年度までに着床前のクローン胚を用いてトランスクリプトーム・エピゲノム解析を進めて、体細胞核移植による初期化異常領域・およびそのパターンを理解することに成功し、論文として発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)。また、これまで我々をはじめとする様々なグループで行われたクローン胚のエピゲノム初期化解析の結果を包括的な総説として発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)。 これまで同定したエピゲノム異常のうち、H3K27me3依存的なインプリント遺伝子はその多くが胎盤形成や着床後の発生にかかわることから、この破綻がもっともクローン胚の発生効率に影響する可能性が高いと考えた。そこで、平成30年度後半からは、予定通り、H3K27me3をターゲットとしてエピゲノム編集技術を用いてその修復・補正を試みている。具体的には、H3K27me3の導入酵素であるPRC2を構成する必須因子、Eed, Suz12, Ezh1/2をクローニングし、これらをクローン胚で同時に強制発現させることでグローバルにH3K27me3を導入する実験を行った。その結果、明らかなクローン胚の胚発生の改善は認められなかった。おそらく、H3K27me3は様々な遺伝子の発現制御に広くかかわっていることから、今後はインプリント遺伝子のみをターゲットにしたアリル特異的なエピゲノム編集法を開発する必要がある。
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