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2018 年度 実績報告書

エピゲノム編集による体細胞核移植法の改善

研究課題

研究課題/領域番号 16H06146
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

的場 章悟  国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (20585202)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワード体細胞核移植 / クローン / ヒストン修飾 / ゲノムインプリンティング / エピゲノム編集
研究実績の概要

体細胞核移植法では体細胞核のエピゲノムを初期化し、クローン個体を作り出すことができるが、その効率は非常に低く未完成の技術である。これまでの申請者らの研究から、クローン胚の発生異常は、ドナー体細胞に存在するヒストン修飾の一種であるH3K9me3、および核移植後のXist 遺伝子の過剰発現が大きな原因であることを示している。また、上記の二つの異常原因を回避して作ったクローン胚でも、着床直後からは異常な表現型を示すことから、着床前の胚盤胞期には既にその後の発生異常の原因となるエピゲノム異常が存在することが強く示された。そこで、上記のようにして作製した胚盤胞期クローン胚のトランスクリプトームおよびエピゲノムを解析した結果、最近新たに発見されたヒストン修飾(H3K27m3)依存的なインプリント遺伝子が、クローン胚ではインプリント情報を失って両アリルから発現していることを発見した。実際に、微小スケールでのChIP-seq法を用いて着床前胚でのヒストン修飾(H3K27me3)の分布をゲノムワイドに解析した結果、クローン胚ではH3K27me3によるインプリント情報が失われていることを確認した。さらに、パブリックなデータベースを用いて、様々な体細胞でのヒストン修飾を解析した結果、ドナー体細胞の時点でこのインプリント制御に関わるヒストン修飾(母方アリルでのH3K27me3)が失われていることが明らかになった。これらの結果を国際誌に発表するとともに(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)、体細胞クローンによる初期化メカニズムに関する総説も発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 b)。
また、上記の結果をもとに、H3K27me3を人為的に体細胞およびクローン胚に導入するエピゲノム編集技術の開発に挑戦している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

まず、計画していた通り、平成30年度までに着床前のクローン胚を用いてトランスクリプトーム・エピゲノム解析を進めて、体細胞核移植による初期化異常領域・およびそのパターンを理解することに成功し、論文として発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)。また、これまで我々をはじめとする様々なグループで行われたクローン胚のエピゲノム初期化解析の結果を包括的な総説として発表した(Matoba et al., Cell Stem Cell, 2018 a)。
これまで同定したエピゲノム異常のうち、H3K27me3依存的なインプリント遺伝子はその多くが胎盤形成や着床後の発生にかかわることから、この破綻がもっともクローン胚の発生効率に影響する可能性が高いと考えた。そこで、平成30年度後半からは、予定通り、H3K27me3をターゲットとしてエピゲノム編集技術を用いてその修復・補正を試みている。具体的には、H3K27me3の導入酵素であるPRC2を構成する必須因子、Eed, Suz12, Ezh1/2をクローニングし、これらをクローン胚で同時に強制発現させることでグローバルにH3K27me3を導入する実験を行った。その結果、明らかなクローン胚の胚発生の改善は認められなかった。おそらく、H3K27me3は様々な遺伝子の発現制御に広くかかわっていることから、今後はインプリント遺伝子のみをターゲットにしたアリル特異的なエピゲノム編集法を開発する必要がある。

今後の研究の推進方策

最終年度となる平成31年度も、30年度に引き続き、H3K27me3によるインプリント制御の破綻について、その修正・修復を試みる。30年度はPRC2によるグローバルなエピゲノム編集を試みたが、グローバルがゆえに毒性もあるため期待通りの表現型回復の結果は得られなかった。そこで、アリル特異的なエピゲノム編集技術を検討する。CRISPR/Cas9技術を使うことで、アリル特異的なエピゲノム編集が可能であることが報告されているので、この手法をクローン胚に適応する。
一方で、H3K27me3によるインプリント遺伝子は数十個存在するため、効率的なエピゲノム編集を行ううえでは、どの因子がクローンの表現型異常に関連するのかを明らかにすることも重要である。そこで、CRISPR法によって個別の遺伝子のヘテロノックアウトマウスを作製し、それらの体細胞をドナーとして使用することで、クローンの遺伝子発現量を補正して表現型の原因となっている遺伝子を探る、という遺伝学的なアプローチも同時に行っている。
最後に、以上のようなエピゲノム編集・ドナーゲノム編集実験の結果、クローン胚で認められたトランスクリプトームおよびエピゲノム異常が回復するかを確認する。これらの分子レベルでの解析と同時に、クローン胚特有の着床後の異常な表現型が回復するかについても、胚移植実験によって確認する予定である。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)

  • [国際共同研究] ハーバード大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ハーバード大学
  • [国際共同研究] 浙江大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      浙江大学
  • [雑誌論文] Somatic Cell Nuclear Transfer in Mice: Basic Protocol and Its Modification for Correcting X Chromosome Inactivation Status2018

    • 著者名/発表者名
      Inoue Kimiko、Matoba Shogo、Ogura Atsuo
    • 雑誌名

      Methods Mol Biol.

      巻: 1861 ページ: 55~65

    • DOI

      10.1007/978-1-4939-8766-5_5

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Aberrant imprinting in mouse trophoblast stem cells established from somatic cell nuclear transfer-derived embryos2018

    • 著者名/発表者名
      Hirose Michiko、Hada Masashi、Kamimura Satoshi、Matoba Shogo、Honda Arata、Motomura Kaori、Ogonuki Narumi、Shawki Hossam H.、Inoue Kimiko、Takahashi Satoru、Ogura Atsuo
    • 雑誌名

      Epigenetics

      巻: 13 ページ: 693~703

    • DOI

      10.1080/15592294.2018.1507199

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Somatic Cell Nuclear Transfer Reprogramming: Mechanisms and Applications2018

    • 著者名/発表者名
      Matoba Shogo、Zhang Yi
    • 雑誌名

      Cell Stem Cell

      巻: 23 ページ: 471~485

    • DOI

      10.1016/j.stem.2018.06.018

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Loss of H3K27me3 Imprinting in Somatic Cell Nuclear Transfer Embryos Disrupts Post-Implantation Development2018

    • 著者名/発表者名
      Matoba Shogo、Wang Huihan、Jiang Lan、Lu Falong、Iwabuchi Kumiko A.、Wu Xiaoji、Inoue Kimiko、Yang Lin、Press William、Lee Jeannie T.、Ogura Atsuo、Shen Li、Zhang Yi
    • 雑誌名

      Cell Stem Cell

      巻: 23 ページ: 343~354.e5

    • DOI

      10.1016/j.stem.2018.06.008

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Reprogramming of Chromatin Accessibility in Somatic Cell Nuclear Transfer Is DNA Replication Independent2018

    • 著者名/発表者名
      Djekidel Mohamed Nadhir、Inoue Azusa、Matoba Shogo、Suzuki Tsukasa、Zhang Chunxia、Lu Falong、Jiang Lan、Zhang Yi
    • 雑誌名

      Cell Reports

      巻: 23 ページ: 1939~1947

    • DOI

      10.1016/j.celrep.2018.04.036

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Application of auxin-inducible degron technology to mouse oocyte activation with PLCζ2018

    • 著者名/発表者名
      MIURA Kento、MATOBA Shogo、OGONUKI Narumi、NAMIKI Takafumi、ITO Junya、KASHIWAZAKI Naomi、OGURA Atsuo
    • 雑誌名

      Journal of Reproduction and Development

      巻: 64 ページ: 319~326

    • DOI

      10.1262/jrd.2018-053

    • 査読あり
  • [学会発表] マウス体細胞クローン胚ではヒストン修飾H3K27me3によるゲノムインプリンティングが破綻している2018

    • 著者名/発表者名
      的場章悟, Li Shen, 井上貴美子, 小倉淳郎, Yi Zhang
    • 学会等名
      第111回日本繁殖生物学会
  • [学会発表] Effect of histone modifications on epigenetic reprogramming by somatic cell nuclear transfer2018

    • 著者名/発表者名
      的場章悟
    • 学会等名
      第90回日本遺伝学会
    • 招待講演
  • [図書] 体細胞クローン胚においてはヒストンのメチル化によるインプリント制御が破綻している2018

    • 著者名/発表者名
      的場章悟, Yi Zhang
    • 総ページ数
      4
    • 出版者
      ライフサイエンス 新着論文レビュー
  • [図書] クローン胚ではヒストンのメチル化依存的なゲノムインプリンテイングが破綻している2018

    • 著者名/発表者名
      的場章悟
    • 総ページ数
      4
    • 出版者
      羊土社 実験医学2018年12月号
    • ISBN
      978-4-7581-2514-7

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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