研究課題
固形腫瘍がある程度以上の大きさに成長するために、腫瘍組織内に血管を形成させる必要がある。そのため、腫瘍血管をの抑制することで癌治療を目指す「兵糧攻め」のコンセプトに基づく研究が、これまでに盛んに行われてきた。その成果をもとに、vascular endothelial growth factor(VEGF)をはじめとした多数の腫瘍血管の形成を誘導する因子が同定され、その阻害剤の開発が臨床応用に向けて進められている。しかしながら、癌治療の臨床に登場したVEGF 阻害剤では、当初期待されていたような劇的な治療効果を得られなかった。本研究では、なぜ腫瘍血管の抑制が際だった癌治療効果に繋がらないのかという原因を明らかにすることで、効果的に腫瘍血管を形成を抑制する癌治療薬の開発を目指す。平成28年度は、血管新生抑制剤であるVEGF 阻害剤を投与した際に、腫瘍組織中の血管にどのような変化が起きているかを明確にするため、生体イメージング解析系を用いて解析を進めた。腫瘍血管にて蛍光を発する遺伝子改変マウス(apelin-tdTomato BAC Tg)にGL261 グリオーマ細胞を頭蓋骨内表層部に同所移植して多光子顕微鏡にて撮影を行い、腫瘍血管の形成がどのように進んでいくのかを明らかにした。また、胆癌マウスにVEGF阻害剤を投与して生体イメージング解析を行ったところ、早期には血管新生の抑制と血管の退縮が認められたが、その後に血管束移動による新規血管の出現が確認された。また、腫瘍組織中のストローマ細胞の密度や分布にも変化が起き、特にミエロイド系細胞が増加する傾向が確認された。増加するミエロイド系細胞の細胞表面マーカーについてフローサイトメーターにて解析したところ、未知の細胞群であることが判明した。現在はシングルセルでの遺伝子発現解析を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度に計画していたイメージング解析による腫瘍血管の形成過程の解析は完了しており、翌年度以降に予定していた血管新生阻害剤の効果の確認にも着手できている。血管新生阻害剤の投与後に増加するミエロイド系細胞の解析についても、計画していた細胞表面マーカーの解析が終了し、新規細胞群であることが判明している。すでにシングルセルでの遺伝子発現解析にも着手しており、上記の理由から「当初の計画以上に進展している」と判断した。
概ね計画書に記載した内容にて研究は進行しており、平成29年度以降も計画書の研究計画に沿う形で研究を進めいていく予定である。具体的な研究計画は以下に示す。1:腫瘍組織における血管束移動の定義付けマウス胆癌モデルマスを用いた生体イメージング解析系にて、引き続き腫瘍血管の形成機構の解析を進める。特に、血管新生阻害剤を投与した後にどのようにして血管が退縮し、再度血管が形成されていくのかを、時間空間的に解析する。また定説となっている低酸素環境と血管形成との関連についても生体イメージング系にて解析し、血管新生阻害剤が腫瘍内の低酸素化を引き起こすのかを明らかにする。2:血管束移動を制御する分子・細胞群の解析同定された新規ミエロイド系細胞についてはシングルセルでの遺伝子発現解析を進め、細胞群の特徴付けを行う。また、これらの細胞が血管新生阻害剤への抵抗性の獲得に関わっているかを明確にするため、血管新生関連遺伝子の発現を解析する。また、新規ミエロイド系細胞を特異的に欠失するマウスの作成することで、新たな癌治療の標的細胞となり得るかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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