研究課題
細胞老化は、恒久的増殖停止や生理活性因子の分泌を特徴とする細胞表現で、抗腫瘍機構として作用する一方、最近になって個体老化の重要な要因の一つである事も示された。しかし、細胞老化の誘導や老化形質の制御に関するメカニズムは不明な点が多い。申請者は、細胞周期G2期におけるp53の活性化が細胞老化誘導に必要かつ十分であることを見出した。本研究では、申請者の発見をもとにDNA損傷応答非依存的な老化細胞の安定的な培養法を確立し、老化細胞の形質に特化したゲノムワイドな発現プロファイリング・機能スクリーニングにより、新規老化制御分子を同定する。さらに、同定した分子の機能を細胞・個体レベルで解析することにより老化形質の制御機構や役割を解明し、発がんや個体老化の分子基盤を構築することを目的とする。(A). DNA損傷非依存的に誘導した老化細胞の安定的な培養法の確立申請者のこれまでの研究成果から開発したDNA損傷非依存的な老化誘導を行い、老化細胞である四倍体G1期細胞のみを単離することで、安定的に老化細胞のみを培養する系を確立した。また、この方法で単離した細胞がDNA損傷非依存的に老化が誘導されているかを確認するために、細胞老化やDNA損傷のマーカーの発現変化を解析した結果、DNA損傷は認められず、老化細胞のマーカーであるp16の発現上昇やSA-beta-Gal染色陽性であることが確認できた。(B). RNA-seqによるゲノムワイドな遺伝子発現プロファイリング老化細胞特異的な発現変化を示す分子を同定するために、正常細胞とDNA損傷非依存的に誘導した老化細胞より抽出したRNAを用いて、未知の転写産物を含めたゲノムワイドな遺伝子発現プロファイリングができるRNA-seqによる解析を行った。その結果、これまでに報告のない多数の遺伝子について、老化細胞における発現増加が認められた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、DNA損傷非依存的に誘導した老化細胞の安定的な培養法を確立することができた。この方法ではほぼすべての細胞が老化細胞になっており、一か月以上の長期培養も可能となったことより、次年度以降に予定しているRNAiスクリーニングのための基盤ができた。さらに、この方法で誘導した老化細胞を用いてRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行った結果、今までに報告のない多数の遺伝子が細胞老化に伴い発現変動することを見出すことができたため。
(1). RNAiスクリーニングによる恒久的な増殖停止を制御する鍵分子の同定ゲノムワイドなプール型RNAiライブラリーを老化細胞に導入する。老化細胞は恒久的にG1期に停止している特徴を利用して、ライブラリーを導入した老化細胞の中から、Fucciシステムにより検出可能なS/G2期に進行している細胞集団(恒久的な増殖停止が破綻した細胞)をセルソーターで分離する。その細胞から抽出したゲノムDNAを用いて次世代シークエンサーでライブラリーのバーコードを定量的に解析して、RNAiの標的分子を同定する。(2). 老化形質制御分子の過剰発現・発現抑制細胞株の樹立と老化形質に対する機能解析ゲノムワイドなアプローチにより同定された分子が実際どのように老化形質を制御しているかを明らかにするために、それぞれの分子に関して、過剰発現・発現抑制株を樹立する。この細胞株をDNA損傷非依存的な誘導の条件、および放射線照射や酸化的ストレスなどの通常用いられる誘導の条件で老化させ、細胞増殖の変化、SA-beta-gal(老化細胞特異的なマーカー)染色、p16などの細胞周期マーカーの発現、およびSASPの発現について解析する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件)
Sci Rep.
巻: - ページ: -
10.1038/s41598-017-00136-5.
BMC Med Genet.
巻: 18 ページ: -
10.1186/s12881-016-0363-6.
Cancer Sci.
巻: 107 ページ: 1406-1415
10.1111/cas.13008.
巻: 107 ページ: 1550-1555.
10.1111/cas.13060.
10.1038/srep31194.
Nat Commun.
10.1038/ncomms12059.