研究課題
悪性黒色腫の治療薬として昨年認可された免疫チェックポイントの阻害抗体は、我が国発の画期的免疫治療薬である。 従来開発されてきたがん免疫治療と比較すると、臨床試験での奏功率は約30-50%と劇的に向上したが、約半数の患者には依然大きな治療効果は見られない。なぜ抗PD-1抗体治療に不応答な患者がいるのか、その原因を解明するためには、なぜ抗PD-1抗体治療で癌が治るのか解明する必要がある。PD-1阻害時に担癌生体内で活性化する免疫機構として細胞性免疫と体液性免疫が挙げられるが、その詳細は不明点が多い。本研究では、細胞性免疫におけるがん反応性キラーT細胞と Tregの制御関係、体液性免疫におけるB細胞を介した抗体免疫について追求する。これまでの研究により、B細胞を欠損するマウスでは細胞性免疫を介した抗腫瘍効果が高くなることが明らかになった。現在このモデルを用いて、PD-1阻害による細胞性免疫/体液性免疫を介した抗腫瘍免疫増強メカニズムを総合的に追求している。とくにgerm freeのB細胞欠損マウスでは抗腫瘍増強効果が減弱したので、B欠損が腸内細菌の異常をきたし、細胞性免疫のがん免疫力を強化していることが明らかになってきた。今後は、B細胞(IgA欠損)による腸内細菌異常がと細胞性免疫の関与について、T細胞のsingle cell解析や、germ freeモデルを用いて、分子メカニズムをさらに詳細に解析する。
2: おおむね順調に進展している
PD-1阻害時における細胞性免疫/体液性免疫の抗腫瘍免疫における影響は不明点が多い。昨年に引き続き、キラーT細胞、Treg、B細胞と抗体を中心に細胞性免疫/体液性免疫を介した抗腫瘍免疫増強メカニズムを総合的に検討した。1)Foxp3-GFP CREKI ROSA26-RFPKIマウスを用いた解析昨年から行っているFoxp3-GFP CREKI ROSA26-RFPKIとの交配が完了した。今後このマウスにおける抗腫瘍免疫力の解析を行う。本マウスを用いることでFoxp3+の細胞上に発現するPD-1の意義を明確にすることができる。コントロールとしてCD4-Cre, CD8-Cre, B-Creとの交配の準備を進めている。2)細胞性免疫/体液性免疫増強メカニズムを行うための基礎検討解析AID-/-マウスやuMT-/-マウスのようにIgAを欠損したマウスでは抗腫瘍効果の増強が認められた。これらの高い抗腫瘍効果にはIgA産生の違いによる腸内細菌異常が原因である可能性が高い。そこで、腸内細菌のいないgerm free AID-/-マウスやuMT-/-マウスを作成し、抗腫瘍効果を検討したところ、これらの高い抗腫瘍効果は大きく減弱した。また、この増強効果にはType I IFNが重要である可能性を示唆する結果も得られている。B細胞欠損マウスで抗腫瘍効果が増強するのは予想外の結果ではあったが、これらの解析は本研究の意義に合致しており、全体としておおむね順調に進展している。
これまでの解析で、腸内細菌刺激が全身の自然免疫サイトカインを誘導し、それが抗腫瘍効果の増強を促していることが徐々に明らかになってきた。しかし、これら一連のB細胞欠損マウスにおける腸内細菌の差がどのように抗腫瘍効果に影響を与えるのかメカニズムは不明である。今後は、AID-/-, uMT-/-マウスを用いて末梢T細胞のsingle cell analysisや、免疫学的・分子生物学的アッセイを行い、体液性免疫と細胞性免疫のクロストークを分子的に明らかにする。またgerm freeのAID-/-, uMT-/-マウスモデルをもちいて、腸内細菌がどのようにB細胞欠損マウスの抗腫瘍力に寄与しているかさらに詳細に検討する。
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