研究課題/領域番号 |
16H06156
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
車 兪徹 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (40508420)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人工細胞 / 生命の起源 / 生物物理 / 合成生物学 / ソフトマター |
研究実績の概要 |
本研究では、脂質合成を触媒する酵素群を、細胞と同じfLスケールの脂質膜小胞内部において合成することで代謝を創発し、自律的に自己複製できる人工細胞の構築に挑戦する。これにより、生体分子の集合体がどのように細胞のサブシステムを構成し、生命現象を成り立たせているのかを理解することを目的とする。 脂質の合成は主に脂肪酸の合成と、後に続くリン脂質合成に大別できる。脂肪酸の生合成を触媒する8種の酵素fatty acid binding protein(Fab)を大腸菌から個々に精製した。さらにacyl carrier protein (ACP)とTesAを精製し、計10種の酵素を得た。精製には、HisTrapカラムとHiTrapQカラムを用い、液体クロマトグラフィーにより低温下で行なった。精製純度をSDS-PAGEにより確認したところ、全てにおいて約95%以上の純度であることが確認できた。 精製した酵素と基質であるacyl-CoAとmalonyl-CoA、電子供与体であるNADPHとNADHを混合し、37度で反応を行なった。その結果、C16:0、C14:0、C12:0の鎖長の脂肪酸が合成されたことをLC-MS解析により確認した。C10:0以下の脂肪酸が合成されなかったが、これについては、代謝の基質として使われたため、比較的効率よく長鎖長の脂肪酸が合成されたと考えられる。 しかしながら反応中、FabZ(3-hydroxyacyl-ACP dehydratase)の強い凝集化が観察された。俺は脂肪酸合成反応依存的であることから、合成した脂肪酸がFabZに結合し凝集化を促していることが示唆された。このことは、In vitroにおける脂肪酸合成が5-10分で停止してしまうことと相関があることがわかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、精製酵素による脂肪酸合成再構築系では、脂質二重膜を形成するのに十分な鎖長の脂肪酸が得られないと考えられていた。しかし、本研究で実際に再構築したところ、C12:0以上の十分な長さの脂肪酸の合成が確認できた。またin vitroの反応産物を直接LC-MSにより解析することで、非常に簡便で迅速に信頼性のあるデータを入手することができる体制が整った。また、将来的に酵素自体を膜小胞内部で合成し、代謝の創発を促す目的で、10種の酵素を試験管内合成系で合成しとところ、全てにおいて合成が確認できた。 反応産物による酵素の凝集化に関しては、遠心処理したサンプルをSDS-PAGEで解析することで、FabZが凝集していることがわかった。さらにFabZの凝集化が脂質二重膜を投入することで抑制されるデータを得ることができた。このことは次年度以降の研究の方向性を牽引するものである。これらのメカニズムについては現在解析中である。 本研究の技術応用として、再構築系による人工細胞構築の有用性についての報告が、4つの和文誌に掲載された。以上の結果から、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
FabZの凝集化抑制に効果のある脂質二重膜の役割について解析を行う。これらの結果を踏まえて、膜小胞内部で合成した場合の脂肪酸のダイナミズムを考える。研究の推進方策は、in vitro会とin lipo系に大別して進める。 in vitro系では効率よく脂肪酸合成が行える条件検討を行い、LC-MS解析により評価する。特にACPとFazBの濃度に着目し至適値の範囲を確かめる。また、脂質膜やシュークロースによる合成活性への影響を観察する。タイムコース測定を行い、定量し、買値ティクス解析を行う。 In lipo系では、数マイクロメートルの脂質膜小胞内部で脂肪酸合成を行い、その形態変化観察を行う。すでに巻く小胞外環境で合成した場合の形態変化を示唆する予察的なデータが得られている。今後は、内部での脂肪酸合成が脂質二重膜にどのような影響を与え、よりダイナミックな変化へと繋がるのかを解析する。
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