研究課題/領域番号 |
16H06156
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
車 兪徹 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (40508420)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 人工細胞 / 合成生物学 / 生命の起源 |
研究実績の概要 |
本研究では、脂質合成を触媒する酵素群を、細胞と同じfLスケールの脂質膜小胞内部において合成することで代謝を創発し、自律的に自己複製できる人工細胞の構築に挑戦する。これにより、生体分子の集合体がどのように細胞のサブシステムを構成し、生命現象を成 り立たせているのかを理解することを目的とする。 脂質の合成は主に脂肪酸の合成と、後に続くリン脂質合成に大別できる。 これまでに脂肪酸の生合成を触媒する10種の酵素を全て精製し、in vitroによる脂肪酸合成に成功した。合成量は250-300uMに達した。また、脂肪酸自体が酵素活性を阻害すること、リポソームの添加によりこの阻害が若干抑制されることを見出した。さらに、巨大膜小胞GUV内部で反応を行なったところ、内部でも脂肪酸が合成されていることが確認できた。これについては現在定量中である。 現時点での問題として合成されたフリー脂肪酸が酵素活性阻害を起こして、反応が停止してしまうという問題がある。これについては、脂肪酸の合成後連続して、リン脂質合成を行い、プロダクトを効率よく脂質膜に配置する仕組みを導入することで対応する。リン脂質合成を触媒する2種の酵素についてはすでにcell-free系によ合成と膜局在を確認済みである。 本研究についてすでに多くのシンポジウムやワークショップで、口頭発表を行っており、大きな注目を集めている。またパブリックレクチャーも精力的に行なっており、PUREサイエンスのPR活動にも尽力している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitro再構築系の最適化により脂肪酸の合成量が250-300uMに増加した点、また反応から定量化までを1日以内で完了できる方法を確立した点は評価できる。さらに同反応が人工細胞系である、巨大膜小胞(GUV)内部でも怒っていることも実証することができた。しかし依然、膜の形態変化は観察されていない点が問題として残っている。その原因の一つとして、合成された脂肪酸が内部のlumenでミセル化し、GUV膜に効率良く挿入してしていない可能性が考えられる。この点を解決するために、plsXYタンパク質を人工細胞内で合成し、リン脂質合成まで進める用意をしている。 人工細胞系の技術的先進として、光エネルギーによりタンパク質を合成する系を構築することができた(Nat. Commun.)。この技術は、本研究課題でも適用できるため、今後の系の発展につながるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
GUV内部にcell-free系と脂肪酸合成系を封入し、内部で脂肪酸合成、タンパク質合成、リン脂質合成を協働させる。これにより理論上100%の効率で脂肪酸をリゾリン脂質に変換し、GUV膜内に挿入する。この方法がうまくいけば、内部の酵素活性を阻害することなく連続的に脂質合成ができると期待できる。
|