脂肪酸合成に関わる10種類の酵素を精製し脂肪酸合成系を再構築した。これにより、Acetyl-CoAとMalonyl-CoAを基質物質として試験管内で脂肪酸を合成することに成功した。合成された脂肪酸は、細胞膜を形成するリン脂質の脂肪酸と同じ鎖長ものが合成できた。また定量解析の結果、200-300uMの脂肪酸が合成されていることがわかった。しかし基質が十分に存在しているにも関わらず、これ以上合成量が伸びず頭打ちになった。その原因として、合成された脂肪酸が酵素を不活性化させていることが示唆された。また巨大膜小胞内(GUV)内で脂肪酸合成を行なったところ、GUVの形態変化は観察されなかった。 この問題を解決するため、細胞内と同じように脂肪酸合成系とリン脂質合成系をカップルさせることにした。PlsX(X)とPlsY(Y)はリン脂質合成の初反応を触媒する酵素であるが、これらは膜局在タンパク質であるため精製評品を用いることができない。そのため無細胞系にて各々の遺伝子からタンパク質合成し機能させることにした。無細胞系により数ー数十uMのXとYが合成された。またGUV内で合成したところ、脂質膜に局在していることが確認できた。 無細胞系合成したXYと、脂肪酸を合成した脂肪酸合成系を混合したところ、リゾリン酸(LPA)の合成がLC-MSにより確認できた。さらにXY無細胞合成系と脂肪酸合成系を統合して反応させたところ、鎖長の短いLPAの合成が確認できた。このことはone-potでCoAからLPAが合成されたことを意味し、細胞内環境に非常に近い系が構築できたとこを意味する。 今後はこの統合系をrefineしGUV内で稼働させ、形態変化を観察することを目標とする。自己成長複製する人工細胞の構築を目指す。 本研究成果をもとに、海外の研究者達とヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムのリサーチグラント(2020年12月スタート)に採択された。
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