研究課題/領域番号 |
16H06157
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八木 祐介 九州大学, 農学研究院, 研究員 (60612421)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | RNA / 翻訳制御 |
研究実績の概要 |
CRISPR systemやTALE, Zinc fingerを用いたゲノム編集技術の登場により、狙ったDNA分子の自在な操作技術(切断、転写制御、イメージングなど)が大きく発展している。一方、ゲノムワイドに細胞内RNA分子の発現制御を行う技術は、RNAiに代表されるノックダウン操作が一般的に利用されているが、その他の発現調節方法についてはほとんどない。申請者らはこれまでの研究でPPR(pentatricopeptide repeat)という配列特異的なRNA結合蛋白質モジュールを解析、改良することで、任意配列に結合するRNA結合蛋白質の作成に成功した。本研究では、それらに機能性ドメイン(翻訳制御)を融合することで、標的mRNAの翻訳量を特異的かつ精密に制御できるツールの開発を行う。本研究で開発するタンパク質分子は、PPRからなる標的RNAに結合するモジュールとRNA機能を改変するモジュールの2つを融合したものとなる。28年度に翻訳阻害モジュールについて探索し、得られたものに関して29年度は標的特異的分解が可能かどうか実証を行った。ヒト細胞の内在標的を選定し、そのRNA配列へ特異的に結合するPPRを作成し、RNaseを融合したコンストラクトを作成し、HEK293Tでノックダウン性能について検証を行った。30%程度のノックダウン効率が認められたが、非特異的なRNA分解も検出された。また、翻訳活性化についても同様に標的を選定し、標的とするPPRを作製し標的特異性について検証した。次年度これらについて、これまでに得られている翻訳活性化モジュールを融合したものを細胞内で発現させ、Western blotting法などにより、標的タンパク質の発現量増加を確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度にRNA分解酵素などの翻訳阻害モジュールについてレポーターアッセイを用いて探索を行い、数種類のモジュールの同定に成功した。29年度は、それらのモジュールとPPRを用いて、ヒト細胞内に存在する内在遺伝子のノックダウンが可能かどうか検証を進めた。標的RNAとしてヒトテロメラーゼhTERTを選択した。hTERTのORF内から標的配列を2箇所選定し、PPRを作成し、標的RNA結合能について解析を行った。結果、両者ともに配列特異性を有しているものが作成できた。次に、RNase融合hTERT標的PPR発現コンストラクトを作成し、HEK293T細胞へノックインした。細胞作成後、リアルタイムPCR方により、hTERT mRNA量の変化を解析した結果、30%程度のノックダウン効率が認められたが、非特異的なRNA分解も検出された。30年度は、Nuclease部位の非特異的な分解能を下げる方向で開発を進める。 さらに、翻訳活性化のほうにも着手した。癌細胞ではCyclin Bの発現が低下しており、この発現量を増加させることでアポトーシスを誘導できることが知られている。そこで、CyclinBを標的とするPPRを作製し、これまでに得られている翻訳活性化モジュールを融合したものを細胞内で発現させ、Western blotting法などにより、CyclinBの発現量を確認することにした。現在までに、CyclinBの5’UTRと3’UTRに標的配列を設定し、PPRを作成したが5’UTRに関して配列特異性のあるPPRが作成できなかった。一方、3’UTRに関しては配列特異性を有するPPRが2つ得られた。今後は、3’UTRに結合し翻訳を増強できるモジュールを融合し、解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、Nucleaseの基質認識部位の改良を行うことで非特異的なRNA分解を抑えられると考え、その改変を行う。使用しているNucleaseに関して結晶構造が得られているのでそれを基に非特異的にRNA分子に結合する部位や活性部位などに変異をいれたものを作製する。また、PPRとRNaseをつなげているLinker配列についても長さ、性質(Flexible, rigid)のものを作成し、ノックダウン効率の変化を解析する。これらの改良を施し、2-3種類の非標的RNAの発現を確認し、非特異的なRNA分解を抑えられることが判明した分子に関しては、RNA-seq解析により、細胞内RNA全ての発現を確認する。進捗次第で、さらに標的の範囲を拡大し、ミトコンドリアなどのRNA干渉技術が適用できない細胞内区画での利用方法についても検討を行う。翻訳増強に関しては、PPR+翻訳活性モジュールを癌細胞へ導入し、Cyclin Bの発現変化についてWestern blotting法などにより定量する。また、CyclinBの発現増加により癌細胞がアポトーシスを起こすことが知られているので、細胞の生死判定などを行うことで、本技術による発現制御がPhenotypeにまで影響を及ぼすことが可能か評価を行う。 進捗に応じて、阻害型PPRと活性型PPRを組み合わせた遺伝子回路の作成にとりくむ。現在のDNA操作技術(転写制御、リコンビネーションなど)の登場により、様々な遺伝子回路の構築が可能になっているが、RNA制御をそこへ加えることで更に精密な制御が可能だと考えている。そこで、翻訳ON/OFFを組み合わせることで、GFP/RFPレポーター遺伝子が、それぞれ発現振幅するような遺伝子回路を作成し、発現パターンを詳細に調べることで各ツールの性能の違い(翻訳誘導性など)を明らかにする。
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