2019年9月(雨季)および2020年2月(乾季)にタイ国トラン県タリボン島の潮間帯海草も場と潮下帯も場それぞれにおいて約24日間の無人航空機および小型録音機による観察を実施した。無人航空機によって潮間帯海草も場の写真を撮影し、250m×140mの範囲の画像を合成した。MATLABを用いた摂餌痕検出ソフトを構築した。面積で計算した場合、摂餌痕の検出率は約50%、誤検出率は約30%であった。 自動水中音録音機SoundTrapを海草も場に埋設し、48 kHzで連続録音をした。得られた水中音データからジュゴンの摂餌音を自動的に抽出するソフトウェアを構築した。本ソフトウェアはまず広帯域のパルス音群をオープニング処理などにより検出し、その音圧や時間間隔に関する自己相関係数に閾値をかけることで摂餌音を検出する。精度検証の結果、摂餌音が含まれる時間窓の検出率は100%、誤検出率は0%であった。ソフトウェアによる検出結果から、潮下帯海草も場には複数個体が同時に摂餌来遊することが明らかになった。摂餌は夜間に偏り、また小潮期間のほうが大潮期間よりも摂餌頻度が高かった。摂餌音の数を応答変数、水深、時間、潮汐差を説明変数とする一般化線形モデルによる変数選択を行った結果、時間、潮汐差及び時間:潮汐差の交互作用項を含めたモデルが最適なモデルとなった。潮間帯も場では大潮時、潮下帯も場では小潮時に摂餌イベント数のピークが観察され、隣接する二つの藻場間で摂餌様式が異なることが示唆された。
|