研究課題/領域番号 |
16H06160
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
村山 泰斗 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 准教授 (60531663)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 染色体動態 / 染色体分配 / 姉妹染色体接着 / SMC複合体 / コヒーシン / 試験管内再構成 |
研究実績の概要 |
コヒーシンは、最も重要な染色体構造形成タンパク質のひとつで、姉妹染色体接着を形成し、正確な染色体分配に必須である。SMC サブユニットを中核とする巨大なリング状構造のATPase複合体であるコヒーシンは、そのトポロジーを利用して、リングの内側に通すかたちでDNAと結合し (トポロジカルなDNA結合)、2本以上の DNAを束ねることによって、姉妹染色体接着をはじめとした、染色体高次構造の形成を行うと考えられている。本研究は、我々が構築した精製タンパク質を用いたコヒーシンの機能的なDNA結合反応の試験管内再構成実験を元に、姉妹染色体接着の形成機構について明らかにすることを目指す。 2017本年度は、コヒーシンの新規のDNA結合活性について重点的に解析し、大きな成果があった。つまり、1) コヒーシンはトポロジカルにDNA結合に結合した状態で、もう一本のDNAと結合し、DNAとDNAのつなぎとめを行うこと、2) 2本目のDNA結合は1本目の結合と同様にローダー複合体とATPに依存すること、3) 2本目のDNA結合は単鎖DNAと不安定な結合からスタートし、DNA合成によって安定な2本鎖と2本鎖DNAのつなぎとめに変換されることを示した。このコヒーシンの素活性は、姉妹染色体間接着の形成機構を原理的に説明しうるものである。また、出芽酵母を使った遺伝学的解析から、単鎖DNA領域が姉妹染色体接着の形成にはたらくことを示唆する結果を得た。以上の得られた知見を纏め、論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
姉妹染色体間接着は、通常の細胞周期ではDNA複製に共役して形成されるが、一方で、DNA2本鎖切断等のDNA損傷に応答し形成される機構も存在する。本研究で発見したコヒーシンの単鎖DNA依存的な2本目のDNAと結合活性は、これら異なる姉妹染色体接着形成経路について、統一的な分子モデルで説明しうる。すなわち、複製フォークにおいては、リーディング鎖の2本鎖DNAとラギング鎖にできる単鎖DNAとの間で、DNA2本鎖切断においては、切断箇所のプロセシングによって形成される単鎖DNAとドナーとなる無傷の姉妹DNAとの間において、コヒーシンが2本目のDNA結合反応によって姉妹DNA間の繋ぎ止めを形成するというものである。実際に、出芽酵母において、単鎖DNA結合タンパク質複合体RPAを過剰発現させると、姉妹染色体接着の形成が抑制され、逆にRPAの変異によって、ctf18変異株の姉妹染色体接着形成の異常が抑圧された。これらの遺伝学的解析は、単鎖DNAが実際に酵母細胞内において姉妹染色体接着の形成に関与することを示唆している。以上から、本研究の発見は、コヒーシンの姉妹染色体接着形成の分子機構について新たなパライダイムを提唱する。
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今後の研究の推進方策 |
コヒーシンによるDNAとDNAのつなぎとめ構造は、姉妹染色体間接着の分子実体であると考えられる。2018年度は、この構造を可視化することに注力する。コヒーシン -DNAの複合体を分離精製し、分子間力顕微鏡によって、その構造を明らかにする。現在、AFM解析に適したサンプルを得るために、現在大きさの異なる環状DNAについてコヒーシンとのトポロジカルな結合反応の効率について検討している。さらに変異コヒーシン・補助タンパク質についても解析を進め、これまでの成果を論文として報告する予定である。
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