研究課題/領域番号 |
16H06162
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
菅 倫寛 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (60634920)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光化学系 / X線自由電子レーザー / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
光化学系IIは光駆動の水分子の酸化と酸素分子の発生を担う、分子量70万の巨大な膜タンパク質複合体である。この水分解・酸素発生の反応機構における原子基盤を明らかにすることは、生物の基本現象を明らかにするのみでなく、エネルギー問題や環境問題を解決する可能性がある、人工光合成研究にも大きく貢献することが期待される。光化学系IIの水分解の反応は5つの反応中間体状態を経ることが分かっているがこれまでに高い原子分解能で結晶構造解析されているのは反応の開始状態に相当するS1状態のみである。そこで本研究では反応中間体のひとつであるS3状態を結晶構造解析し、反応機構の原子基盤を明らかにすることを目的としている。初年度はX線自由電子レーザー施設SACLAを用いて、サイズが100um程度の非凍結の小さな結晶へ室温にて閃光を二発照射してS3状態へと励起させた回折データを収集した。サンプル調製の再現性が難しく、予定よりも実験の進展が遅れたので繰り越し申請を行う必要があったが、その後再度実験を行い、100万枚を超える回折イメージを測定した。これらのデータからX線が照射された回折イメージを選択し、モンテカルロ法を用いて2.35 Aで構造解析可能な回折データおよび電子密度を得ることができた。同型差フーリエマップを分析したところ、酸素発生する触媒部分に新たな水分子に相当する電子密度の挿入が確認された。この水分子は酸素発生触媒の基質候補とされていた酸素原子とおおよそ2.0 Aの距離にあり、分子状酸素を発生させるのに適していると考えられた。これにより酸素が発生する直前の構造を明らかにし、この新たな水分子が基質となる反応機構を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶の品質、回折データの処理方法、構造解析方法の条件の検討と改善が当初の計画以上に進んだ。その結果、高い分解能の回折データが得られ、精度よい原子モデルを得ることができた。そのため、水分解反応機構における基質分子に相当する水分子を明らかにし、論文発表できた。これにより反応機構の大方の枠組みが確定したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
より詳細な議論を行えるように今後は原子モデルの分解能を改善していく共に別の反応中間体の構造解析を進めていく予定である。
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