研究実績の概要 |
神経管形成不全は、10,000人あたり3.5人程度が発症する比較的発症頻度の高い神経疾患であり、その病理発症機序の理解は重要な課題である。神経管は、神経板を構成する細胞が集団的な細胞移動をすることによって形成される。この協調的細胞移動は、進化的に保存された平面細胞極性(PCP)制御因子群によって制御されており、これらの遺伝子の変異が神経管形成異常の原因となることが明らかになってきている。 ゼブラフィッシュは、胚が透明で体外で発生し、かつ遺伝学的操作も容易であることから、神経管形成研究の良いモデル生物である。ゼブラフィッシュの脊髄は、神経板を構成する細胞が集団的な細胞移動を行った後に、正中線に沿った対称細胞分裂を行うことによって形成される。PCP因子の一つである4回膜貫通型タンパク質Vangl2の遺伝子に変異を持つ突然変異ゼブラフィッシュでは、細胞集団の移動が遅延するものの、対称細胞分裂の時期は影響されないため、脊椎が左右に二重に形成される(Tawk et al., 2007, Nature)。しかし、PCP因子がどのような情報伝達機構によって制御され、神経管形成に関わるのかについては、不明な点が多く残されている。 申請者は、神経幹細胞の細胞極性維持に関与する因子を探索する過程で、情報伝達経路の分子スイッチとして機能する低分子量Gタンパク質の発現抑制が、vangl2突然変異体と同様の神経管形成異常を引き起こすことを見出した。本申請課題では、低分子量Gタンパク質に注目し、神経管形成における役割を明らかにすることを目的としている。本研究は、神経管形成における低分子量Gタンパク質の生理的役割の理解を拡大するだけではなく、神経管形成異常の病理発症機構を明らかにし、その診断・予防法開発に貢献することが期待される。
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