研究実績の概要 |
神経管形成不全は、比較的発症頻度の高い神経疾患であり、その病理発症機序の理解は重要な課題である。神経管形成は、進化的に保存された平面細胞極性(PCP)制御因子群によって制御される。しかし、PCP因子がどのような情報伝達機構によって制御され、神経管形成に関わるのかについては、不明な点が多く残されている。 研究代表者は、神経幹細胞の細胞極性維持に関与する因子を探索する過程で(Ohata et al., 2011)、情報伝達経路の分子スイッチとして機能する低分子量Gタンパク質R-Rasの発現抑制が、vangl2突然変異体と同様の神経管形成異常を引き起こすことを見出した。本申請課題では、R-Ras変異ゼブラフィッシュを作出し、発現抑制実験の結果を確認した(Ohata et al., 2018)。さらに、R-Rasが結合するグアニンヌクレオチド型依存的にVangl2との結合強度が変化することを見出し、R-Rasが細胞外からのシグナルに応じてVangl2と結合し、神経管形成を制御する可能性を見出した。 低分子量Gタンパク質による形態形成という概念をさらに拡大するために、当研究室で単離した低分子量Gタンパク質の機能解析を行った。各種遺伝子破壊マウスの表現型解析の結果、新奇本研究低分子量Gタンパク質Arl8bが母体から胎仔への影響供給(Oka et al., 2017)や背側神経管形成(Hashimoto et al., 2019)に関与することを見出した。本研究は、固体発生における低分子量Gタンパク質の生理的役割の理解を拡大するだけではなく、病理発症機構を明らかにすることによって診断・予防法開発に貢献することが期待される。
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