研究実績の概要 |
平成30年度は, 前年度までに開発してきたタンパク質の構造探索法をGタンパク質共役受容体 (GPCR) へ適用した. 具体的には, 研究代表者が開発した遷移経路探索法であるPaCS-MDとOFLOODと組み合わせたハイブリッド型の構造サンプリング法を開発し, GPCRのリガンド結合過程に適用した. 本手法の利点として, PaCS-MDとOFLOODを組み合わせることにより, PaCS-MDのみの遷移経路探索の探索不足分をOFLOODで補うことができる. また, GPCRとリガンドの結合過程を抽出するために, 反応座標を指定する必要があり, 当初の計画ではリガンドと活性部位の重心間距離を検討していたが, 単純な重心間距離では, 結合過程を十分に記述することが困難であるため, PaCS-MDの更なる拡張を行った. 具体的には, PaCS-MDの反応座標を遷移経路探索の過程で動的に可変にし, 複数の反応座標の候補の中からスコア関数を定義し, その値を参照にすることで, 適宜最適な反応座標を選択する方法論を開発した. この拡張により, GPCRのリガンド結合過程を記述する妥当性の高い自由エネルギーが低い経路を探索可能にした. 自由エネルギー評価には, PaCS-MDやOFLOODから得られた原子座標トラジェクトリを用いてマルコフ状態モデルを構築し, 固有値問題として解くことでシステムの定常状態を求め, 高精度な自由エネルギー計算可能にする方法論を開発した. 初年度にCPUからGPU (演算加速器) への計算機搬入の変更が生じ, 次年度へ予算を繰り越したため, GPCRへの手法適用が遅れてしまったが, 現在, GPCRのリガンド結合過程に伴う膜内外のシグナル伝達経路の解析を継続しており, 今後は研究成果をまとめ, 論文投稿を目指す.
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