動物細胞は細胞膜直下にコルテックスと呼ばれるアクトミオシンの網目構造をつくる。コルテックスは細胞接着時の牽引力発生やブレブと呼ばれる膜突起の突出による細胞運動を駆動すると考えられている。また、核や紡錘体などの細胞内構造の配置制御にも関与している可能性が示唆されている。そこで本研究では、細胞膜皮層のアクトミオシンネットワークが多様な細胞機能を制御する仕組みを、人工細胞システムを用いて包括的に理解することを目的としている。 当該年度は、昨年年度までに構築した人工細胞作製の基盤技術及び、アクトミオシンの制御タンパク質の大腸菌発現系を用いて油中液滴内でコルテックスを再構成し、ミオシンの活性化によってコルテックスが破け、収縮する条件を明らかにした。さらにコルテックスの収縮に伴い液滴が動くことを発見。コルテックスと膜との接着強度の変化によって、液滴の運動モードが変わることを明らかにした。この結果は、コルテックスの収縮によって動く細胞が自発的に極性を形成し、その極性を維持するメカニズムの理解に繋がると期待される。 また、カエル卵の細胞質抽出液と核サイズのオルガネラクラスターを油中液滴に封入した人工細胞を用いて、アクトミオシンコルテックスが細胞内構造の配置を制御しうるかどうかを検証した。その結果、コルテックスが膜から剥がれて液滴中心に向かって収縮していく過程でクラスターを液滴中央に押す力と、クラスターと液滴界面の間で確率的に形成されたアクトミオシンネットワークがクラスターを液滴界面に引き寄せる力、これらの拮抗する力の大小関係でクラスターの配置の対称性が制御されることを発見した。この結果はコルテックスが核や紡錘体などの細胞内構造の配置を制御するメカニズムの理解に繋がると期待される。
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