多細胞生物の発生では個々の細胞が適切な形態や機能を獲得するプロセスが必須である。植物においては細胞膜直下に並ぶ微小管やアクチン繊維が細胞壁の沈着パターンを適切に制御することにより細胞の成長や分化を支えている。そのためには細胞内での細胞骨格等の構造の配置を時空間的に厳密に制御する必要がある。本研究課題では木部道管における細胞分化をモデルとして細胞内に適切に細胞骨格を配置し、細胞壁の沈着パターンを決定づける空間的なシグナルの分子実体とその階層的な作用機序の解明を試みた。その結果、新規の微小管付随タンパク質IQD13およびCORD1を同定し、これらのタンパク質が微小管と細胞膜との相互作用を調節することにより、微小管ならびに細胞膜上に局在するROPGTPaseの局在パターンを制御していることが判明した。IQD13は微小管および細胞膜と相互作用を促進する一方微小管の脱重合を抑制し、細胞膜上でのROPGTPaseの拡散を抑制していることが示唆された。一方CORD1は細胞膜と微小管との相互作用を抑制し、微小管の細胞膜からの剥離を促進していた。これにより細胞膜上での微小管によるROPGTPaseへの作用を弱めていることが示唆された。これらの相反する活性を持つタンパク質の作用バランスにより、細胞膜上の微小管とROPGTPaseの局在パターンが決定され、それが細胞壁の沈着パターンとして表出されることが示唆された。これらの成果により、細胞骨格とROPGTPaseとの相互作用を通して細胞自律的に細胞内での配置が決定される仕組みが明らかとなった。
|