研究課題/領域番号 |
16H06173
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 助細胞 / 胚乳 / 花粉管 / 助細胞胚乳融合 |
研究実績の概要 |
助細胞胚乳融合は,発達する胚乳が残存助細胞を融合・吸収する現象として発見されてきた.受精に依存せずに自律的に胚乳が発達するポリコーム抑制複合体2 (FIS-PRC2)の変異体であるmsi1変異体を解析したところ,自律的に胚乳が発達した胚珠においても助細胞胚乳融合が誘導することがわかった.これにより,FIS-PRC2の下流で制御される胚乳発達因子の中に助細胞胚乳融合に必須の因子が存在することが示唆された.一方,受精直後の胚珠を取り出してin vitroで培養し,様々な阻害剤で処理したときの助細胞胚乳融合への影響を解析したところ,受精後に起こる新規遺伝子発現や胚乳核分裂を制御するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性が助細胞胚乳融合の制御に重要な役割をはたすことが示唆された.また,順遺伝学的なアプローチとして,最初に助細胞胚乳融合をきっかけにして種子の致死を引き起こすような植物体の作出を目指していたが,細胞融合後も遺伝子発現のスイッチとなるはずのGAL4-tagRFPが小胞体膜上から核内へと移行する様子は見られず,遺伝学の材料としては適さないことが明らかとなった.一方で,逆遺伝学的アプローチの手がかりを得るために,受精直後の胚乳で特異的に発現する遺伝子の解析を目指している.胚乳特異的に発現をするFWAのプロモーター領域を用いて,核膜をビオチンラベルする形質転換体を作出しているところである.これにより,INTACT法とよばれる細胞核回収手法で初期胚乳の核を単離する準備を進めているところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被子植物の花粉管誘引は受精後間もなく起こる助細胞胚乳融合によって急速に停止することが知られている.助細胞胚乳融合は重複受精によって強く誘導されるが,受精非依存的な自律的胚乳発達によっても起こるかどうか明らかではなかった.そこで,種子発達を負に制御するポリコーム抑制複合体2 (FIS-PRC2)の変異体を解析した.msi1変異体の雌しべを除雄して2日後の胚珠を蛍光観察したところ,助細胞をラベルしていた緑色蛍光蛋白質GFPの蛍光が自律的に発達する胚乳へと移動することがわかった.これにより,FIS-PRC2の下流で制御される胚乳発達因子の中に助細胞胚乳融合に必須の因子が存在することが示唆された(Motomura et al.; Cell Struc. Funct. ;2017).一方,受精直後の胚珠を取り出してin vitroで培養し,様々な阻害剤で処理したときの助細胞胚乳融合への影響を解析したところ,タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドや転写阻害剤であるコルジセピンで処理をすると,受精後の胚珠における助細胞胚乳融合は顕著に阻害された.同様の阻害作用はCDKの阻害剤のロスコビチンでも確認されたことから,受精後の新規の遺伝子発現や胚乳核分裂自体が助細胞胚乳融合において重要な役割をはたすことが明らかとなった(論文投稿中).研究代表者が名古屋大学から横浜市立大学へと異動した関連で,名古屋大学のITbMとのケミカルライブラリーの使用契約の締結に時間がかかっていたが,年度内に契約を完了することができた.上記の薬理学的解析でも示唆されたように,助細胞胚乳融合において必要とされる遺伝子の一部は受精後に発現を開始する.初期胚乳で特異的に発現する遺伝子の同定にむけて,胚乳特異的に発現をするFWAのプロモーター領域を用いて,核膜をビオチンラベルする形質転換体を作出しているところである.
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今後の研究の推進方策 |
阻害剤を用いた薬理学的アプローチは一定の成果を上げることができたので,ケミカルライブラリーで新たな知見獲得を目指すものの,優先順位を下げて別のアプローチに集中をする.まず,順遺伝学的アプローチでは,細胞融合を検出する植物体を親株として用いる予定であったが,それにはこだわらず,助細胞のミトコンドリアと細胞核を別々の蛍光でラベルした株をベースに変異原処理し,M1世代でスクリーニングを開始する予定.蛍光顕微鏡で逐一観察をするビジュアルスクリーニングになることから一週間で100個体程度しか選抜できない計算になるが,1,000個体ほど観察をして,今年度中に助細胞胚乳融合に欠損を示す変異体を取得し,助細胞胚乳融合の分子メカニズムにせまるきっかけを作っておきたい.また,INTACTによって初期胚乳における遺伝子発現を調べる準備も着々と進んでいることから,本年度はINTACTの系を実際に動かすことを目標とする.
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