植物細胞の周辺は厚い細胞壁に覆われていることから,細胞同士が接触を必要とする細胞融合現象は起こらないと考えられていた.ただ,雌側組織である胚珠の内部に存在する2つの雌性配偶子,卵細胞と中央細胞の受精のみが被子植物の発生において例外的に起こる細胞融合として知られていた.近年,われわれのグループは,受精した中央細胞,すなわち胚乳が隣に位置する助細胞を融合・吸収することを明らかにした.本研究ではこの助細胞胚乳融合と命名した新規の植物細胞融合現象の分子メカニズム解明とその生理学的役割の解明を計画していた.30年度では,助細胞胚乳融合についてわれわれが注目している新機能,すなわち,受精後の胚珠が過って後発の花粉管を受容したとき,不要な精細胞を受精の場へと送るかわりに胚乳へと廃棄する最終的な精細胞の経路選択機能を明らかにした.この成果については6月に開催された国際植物生殖学会(ICSPR2018)報告した.助細胞胚乳融合の分子メカニズム解明に向けた順遺伝学的アプローチでは,スクリーニングの規模を拡大し,高頻度に助細胞胚乳融合の欠損を示す変異体の系統を合計8つ得た.そのうち,系統#17については5回目の戻し交配が完了しており,受精後の種子の表現型解析を行った.その結果,助細胞胚乳融合を欠損する胚珠が助細胞核の崩壊のタイミングが遅くなることが示唆された.花粉管の誘引活性をもつ助細胞の細胞核崩壊は,受精後の胚珠の速やかな花粉管誘引停止において重要な役割をはたしていると予測されてきた.系統#17は受精後の助細胞の不活性化メカニズムを解析するツールとして期待される.
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