前年度に引き続き,カエデチョウ科鳥類を対象に,なぜ複数モダリティにまたがる「派手な」装飾形質や行動が進化し,それがときに雌雄に備わるかを明らかにするため,行動研究と種間比較研究とを並行しておこなった.
動的信号にかかわる行動研究 | カエデチョウ科の多くは,求愛の際,視覚信号(ダンスディスプレイ)を雌雄で共有するのに対し,音声信号(歌)はオスしかうたわない種が多い.このダンスと歌のそれぞれがどのような情報を伝えているのかに関して,本年度の研究では特に個体発生との関連に着目し,次のようなことが明らかになった.歌は,学習後に固定化するため,性成熟後は変化が非常に乏しい.しかし,加齢にともなう変化を仔細に解析すると,年長のオスほど「よい」歌をうたっている傾向がみられた.ダンスは,歌と異なり,社会学習によって獲得される形質ではない.しかし,少なくともブンチョウの場合には,発達期におとなを相手に非常に頻回な「練習行動」が確認さえることがわかった.これは,運動能力の向上と社会性の発達にとって重要であると考えられる.
形態形質の進化にかかわる種間比較研究・行動研究 | 前年度までの知見から,カエデチョウ科の羽装では,色の鮮やかさよりも模様(斑点や縞)が性淘汰形質として重要であることがわかってきた.それを踏まえ,特に斑点模様の進化に関して感覚バイアス仮説からの予測を検証した.その結果,カエデチョウ科一部鳥種では,実際に水玉に対して視覚選好がみられ,その選好は採餌行動と結びついている可能性が示唆されたことから,感覚バイアスが模様の性淘汰形質としての進化に影響していると考えらえる.おそらく,粒状の餌(昆虫の卵・幼虫・穀類)を主食としているため,採餌を効率的におこなうための視覚選好が模様の進化にも影響した可能性があるだろう.
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