研究課題/領域番号 |
16H06178
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松林 圭 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60528256)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生態的種分化 / 同倍数性雑種種分化 / エコゲノミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、同倍数性雑種種分化が見つかった日本産マダラテントウにおいて、その実験的再現を行うとともに、種分化に関わる形質と分化の遺伝的メカニズムを探るものである。H29年度においては、対象となるテントウムシ2種同士を交配させたF1雑種からさらにF2雑種を作成し、アザミとルイヨウボタン上で幼虫を飼育して生存率を含めた複数の生育パラメーターを測定した。また、両種の共通食草であるナス科植物でも同様に飼育し、幼虫期の食草の違いによるバイアスがない成虫を得たうえで、上記2食草に対する成虫受容性をテストした。 以上の飼育交配実験に用いた成虫はアルコールで固定し、DNAを抽出した上でRAD-seqを用いたゲノムワイドSNPによる連鎖解析を行った。また、主な対象としているアザミとルイヨウボタンのスペシャリスト2種の計3集団に、その近縁種となるジェネラリスト1種1集団を加えた4集団について、遺伝子発現を比較するため、共通食草で飼育して得られた計16個体の成虫からRNAを抽出し、mRNA-seqによって発現比較を行った。また、昨年度得られた全ゲノムデータのアノーテーションと解析を進め、本近縁種群で使用できるマイクロサテライトの開発を行った。 昨年度に引き続き、野外における雑種由来の種の起源を詳細に推定するため、上記3種の分布調査とともに、各地域の集団を採集したうえで食性をスクリーニングしてアルコールで固定した。H28年度およびH29年度で、必要な地点の8割程度をカバーしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
F2を用いた食性テストと発現比較に関して、当初予定していたデータが得られており、解析を順次進めている。F2の食性については、当初想定した以上にアザミ上での生存率が下がる現象が見られたが、これが雑種形成後にルイヨウボタンのスペシャリストが進化するひとつの原因になっていると推測される。特定の食草上で生存率が極端に低かったことにより、QTL解析を十分に行うサンプルは得られなかったため、連鎖地図の作成とRNAを用いた発現比較を併用する方向に計画を切り替えている。野外集団の採集とスクリーニングについても、初年度と合せて予定していた地点をほぼカバーできているが、一部空白の地域があるため、最終年度も引き続いて採集を行う必要がある。リファレンスゲノムから野外系統解析のためのSSRマーカーを作成し、野外集団のDNAを用いて実際の有用性をテストしている。
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今後の研究の推進方策 |
質の高いリファレンスゲノムが得られたため、これをベースとしてRAD-seqによる連鎖地図作成とRNA-seqによる発現比較を組み合わせ、種の違いに関係するゲノム領域の特定を進める。 また飼育実験についてはF3世代を作成して食性をスクリーニングするほか、未テストであった他のアザミ種に対する生存率についても可能な限り測定してデータを追加していく。
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