種間での雑種が、染色体の異数化・倍数化を伴わずに両親種との間に生殖隔離を示すことで新しい種が生じる“同倍数性雑種種分化”は、きわめて速やかに生殖隔離が発達するという点で、種分化の遺伝的背景を解明する鍵となりうる現象である。本研究では、同倍数性雑種種分化が見つかった日本産マダラテントウにおいて、その実験的再現を行うとともに、種分化に関わる形質と分化の遺伝的メカニズムを明らかにすることを目的としている。 ここまで、雑種由来の種の両親種の集団を複数地点から採集して掛け合わせ実験を行い、生殖隔離を定量化するとともに、雑種F1を作成してその食性などを調査した。雑種由来の種と比較して、雑種F1は明らかに多型性が高く、両親種のどちらの食草についても摂食することができた。一方、両親種の食草間では、アザミ上での生存率が著しく低い結果となった。この結果を基にして、ショ糖ゲルを用いた摂食試験を行ったところ、雑種由来の種では明らかにアザミへの摂食を忌避する傾向があった。これは生存率の低いアザミへの産卵を抑制するために進化したものと考えられる。今後のプロジェクトでは、このようなスタイルで生じた“強化”による種分化について理解を深めていく必要がある。 種分化の要因となる遺伝子のスクリーニングについては、触角や小顎髭からRNAを抽出して遺伝子の発現量を比較しており、全ゲノムデータへのマッピングを経て、RNAiによる発現抑制を持って遺伝子の機能解析を行う。 野外における雑種由来の種の起源を推定するために、この種群のこれまで知られている全分布域から野外集団を採集し、RAD-seqを利用して全500個体に及ぶ系統解析を行った。結果については現在解析中であるが、ルイヨウボタンを専食する種が複数回独立で進化していることが示唆された。
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