本研究ではミトコンドリアにコードされる機能不明ORFによって正常な花粉が分化できなくなり,自殖による種子がとれなくなる細胞質雄性不稔性(CMS)イネを材料に用いて,次世代育種技術(TALENおよびPPR)を用いた人工稔性回復因子(人工RF)の開発を行うことを目的とした.具体的には,ミトコンドリア移行シグナル付TALEN(mitoTALEN)によってCMS原因遺伝子へ変異を導入することで稔性回復を引き起こすことと,人工PPRタンパク質をコードする遺伝子を導入することでCMS原因遺伝子から転写されるRNAを切断もしくは分解させることで稔性の回復を引き起こすことの2点について研究開発を行う. TAL2およびTAL3遺伝子導入BT型CMSイネについて,ミトコンドリアゲノムにどのような変化が生じているかを調査した.この結果,TALENによって2本鎖切断(DSB)が起こった後,DSB箇所の周辺に存在する配列と相同な配列を介して組換えが起こることで,ゲノムの安定性が維持されていることが分かった.このことは,核ゲノムにTALENを作用させて生じるDSBの修復機構とは異なることが明らかとなった. WA型CMSイネのCMS原因遺伝子と考えられているorf352とCW型CMSイネのCMS原因遺伝子と考えられているorf307を標的とするmitoTALENを遺伝子導入するために,コンストラクションを行った.さらに,それぞれのmitoTALENコンストラクトをそれぞれのCMS系統へ遺伝子導入を行った. 変異導入Rf1コンストラクトを導入したBT型CMSイネについて,P1型人工気象室で育成させ,花粉稔性と種子稔性の確認を行った.この結果,一部のコンストラクトを導入した系統では,稔性の回復が見られなかった.
|